僕の神主修行
[12 呼ばれた人の子](1/78)
「命葉ー!ちょっとこっち来てー!」

その時、僕の勘が大いに働いた。

ある平日の昼下がり。

だいぶ暖かい季節にもなり、昼ごはんを食べてのんびりしていた僕を、どこからか母さんが呼んだ。

同じ茶の間でダラダラしてスマホをいじっていた雨零さんは

「命葉さん、呼ばれてますけど…いいんですか?」

と画面から目を離して心配そうに言う。

そう、僕はその勘が働いたおかげで動きたくないんだ。

「大丈夫大丈夫。こういう、家にいる時に遠くから声をかけてくるのはなんか手伝わせるパターンだから。22年ここに住んできてんだからもう騙されないよ」
「はあ。でも永葉さんなら引きずってでも連れていくんじ…」
「命葉っっ!」
「「ヒィッ」」

雨零さんの予想通り、待ちかねた母さんは僕を迎えに来た。

鬼の形相…とまではいかないけど、それでも結構怖い。

少し前までの大人しくて優しくて美人なスペシャルマザーはどこへ…。

「返事ぐらいしなさいよ、なんかあったかと思うでしょ」
「まさか、僕が発作を起こすほどの病気持ってると思ってんの?近頃はだいぶ落ち着いてきてるし、大丈夫だよ」
「ならいいんだけど…あ、そうそう、今日お天気いいから溜まってた洗濯物一気に洗濯しちゃってさ、干すの大変だから手伝ってくれない?」
「…思い出さなくてもいいことを。僕のせっかくの至福のひと時が終わっちゃうよ」
「その分はみんな神命に任せるからいいのよ。今日はどうせ暇だろうし、少しくらいなら大丈夫大丈夫」
「えぇ…」
「あ!でしたら私もお手伝いします!」
「あらそう?じゃあお願いしようかな。命葉、あんたはあんたと神命の分の洗濯干してね」
「は?」
「は?って…さすがの私も自らの息子に自分の女物の下着とか干させたくはないわよ」
「命葉さん…まさか…」
「違う違う!まさか一緒に洗ってるとは思わないでしょ!」
「面倒だから一緒に洗うわよ。あんたもそろそろ自分で洗濯くらいしなさいな」
「学生時代やってたっての…」

僕は既に分別されて別のカゴに入れられていた洗濯物を受け取った。

洗濯物の中には私服だけではなく、白衣も入っていて、ウチの雑さが容易に伺える。

「干すのも分けるの?」
「あんたのカゴのは全部外に干していいよ。」
「はいはい」
「返事は1回!」
「…」

僕は渋々ながらも、先に外に出ると洗濯物を干し始めた。

東京から帰ってきてあれから3週間ほどが経とうとしている。

真衣さんによると、あれから心霊現象?の類のものはピタッと止み、安心して過ごせるようになったらしい。

霊道から殆どの霊がいなくなったのは本当に本当のようで、僕も安心していた。

帰ってからはまた少し連休を貰い、先週にはいつも通り仕事に参加することになった。

久しぶりにあちらこちらと動いて、筋肉痛が酷かったのは言うまでもなかった。



- 581 -

前n[*][#]次n
/726 n

⇒しおり挿入


⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?

[編集]

[←戻る]