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第一章[black](1/2)
日曜の昼下がり、一人の女性が、ある大きな通りを歩いていた。
真夏だというのに真っ黒なコートに身を包み、足下を見ながらトボトボと歩いているその姿は、行き交う人々の注目を浴びている。
彼女は行く宛もなく、ただ朦朧とした意識に身をゆだねて歩き続ける。
気づけば彼女は小さな公園のベンチに座っていた。
隣には新聞を広げた若い男が一人。
彼女が男の方に目を向けると、男が視線に気づいたかのように顔をあげた。
真っ黒の帽子にコート、そしてサングラス…。
よく見るとこの男も浮いた格好だ。
「何か…?」
まじまじと自分の事を見つめる彼女に向かって男が声をかけた。
「……いえ…何でも…。」
その言葉を疑うように男は彼女の様子をうかがうが、やがて新聞へと目を戻した。
彼女の目は虚空をさまよい、口は半開きになっている。
しばらくして再び男が口を開いた。
「とても大丈夫そうには見えませんけど?」
「…いえ…そんなことは……。」
長い沈黙。
男はチラッと彼女の方を見ると、唐突に言った。
「誰かに相談してみてはいかがです?」
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