不純愛DNA
[トラウマ](1/58)
トラウマ
自転車置き場に隣接する駐車場から車が出て行った。昼ピークも終わったから、カフェから出てくる客が帰っていくのだろう。
陶酔していた私は軽く息を吐いて自分を取り戻した。2人だけの世界のようだと浸っていたが、単に周りが目に入っていなかっただけか。
こんな時間はこれで本当に最後だ。次に会う時は別れを切り出さなくてはならない。
ずっとこうしていたい気持ちを振り切って、翔平くんの腕から抜け出す覚悟を決めた。身をよじるとすぐにつかまえられる。しょせん力では敵わない。
「翔平くん、もう帰らないと」
これ以上は私の歯止めが効かなくなる。
「さすが大人は切り替え早いっすね。オレはそんなにドライになれない。次に会えるのは受験の後だろ。長すぎて気が遠くなる」
私を求めてくれるストレートな言葉が今はとても痛い。
私の気も知らないでひどいよ。次に会う時が本当の終わりなのだ。永遠にその日が来なければいいのに。
「キリがないから。ほら、人も来てるし」
「関係ないよ、誰も他人の事なんか気にしてない」
翔平くんはさっきと同じセリフを言って私を腕に閉じ込めた。逃れられないのは彼が強引だからじゃない、私の意志が弱いせいだ。
カフェから出てきたらしい男が、こっちへ向かって歩いてくる。駐車場に行くにはこの自転車置き場を突っ切った方が近道なのだ。
「ホントに人が…」
カフェのテイクアウトの袋を持った男は、私達に気付いて少し遠巻きに駐輪場に入って来た。いちゃついてるカップルに目のやり場に困ったのか、不自然なくらいに顔を背けている。
男が私達の隣に差し掛かって、さすがに翔平くんの胸を押した。
「ちょっと翔平くんてば」
視界の端で男がこちらを向いた。視線が気になったのか翔平くんも男の方を見る。
瞬間、私を抱く腕が不自然な程にびくりと震えた。
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