不純愛DNA
[12月23日](1/36)

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もうここまでだ、これ以上は自分が保てなくなる。それは端的に言えば翔平くんと距離を置くという事で。


大そうな覚悟をした割には、案外簡単にその通りになった。


12月に入ると翔平くんは、年明けに備えた受験のために囲炉裏屋のバイトを完全に休みにした。バイトでさえ会わなければ高校生と大学生の接点なんて何もない。


私は淡々と大学とバイトをこなして、彼は受験勉強に励む。そうしているうちに自然にあの子の事は薄れて、次に会う頃には冷静でいられるだろう。


野上さんへの憧れみたいな恋しかしてこなかった私には、翔平くんのじかの体温や腕の力は鮮烈過ぎた。だからつい翻弄されてしまったのだ。


会わなければきっと忘れられる。そう思っていたのに、不意に彼からラインが来た。


『1月の半ばに試験。もう高校も休みになったんで自宅にこもって大人しく勉強するつもり。当分バイトも休むからよろしく』


わざわざ報告してくれなくても店長に聞いて知ってるのに。こっちが必死に抑えようとしてる想いを一瞬で揺り戻すんだから嫌になる。


『頑張ってね』


返事をしないのもおかしいので、通りいっぺんの言葉を返した。本当は応援してるとか風邪ひかないでとか、書きたかった事はたくさんあったけれど。余計な一言から気持ちがバレそうでやめた。


こんなライン1つでぐらついてるんじゃ先が思いやられる。1月に彼が戻ってきた時、平常心で迎えられる気がしない。


いっそ翔平くんがいぬ間にこっそり辞めてしまおうかとも考えた。しかし今の時期は忘年会、来月は新年会で居酒屋はかき入れ時だ。


ただでさえ翔平くんが抜けて店が回らないのに、私まで抜けたらシフトが作れなくなる。イコール店長が死ぬ。


何だかんだ言い訳をつけて、私は彼との唯一の繋がりであるバイトを今日も捨てられずにいた。




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