不純愛DNA
[素顔](1/45)
素顔
あれから1週間、何事もなく時間はさらさらと流れた。本当に今まで通り、何も変わらず。
あの日家に帰ると、お姉ちゃんとママはいつものようにキッチンに立っていた。
「もう、楓ちゃん。朝帰りなんかして学生だからって羽目外しすぎよ」
お姉ちゃんが説教臭いのもいつも通りだった。
「朝ごはん食べてきたの?」
ママがのんきに聞いてくる。
「うん、食べた」
「カラオケに朝ごはんのメニューなんかあるの?」
ママは私が男の子と外泊したなんて微塵も疑ってなかった。野上さんはやはり黙ってくれていたのだ。
「ううん、コンビニで肉まん食べた」
「そう。今日学校休みなんでしょ。ちょっとは寝たら?」
「うん、そうする」
本当はホテルでたっぷり睡眠をとってきたくせに、眠そうなふりをしてみせた。
「ねえ…お姉ちゃん、昨日具合悪かったんでしょ。起きてて大丈夫なの?」
私が問いかけるとお姉ちゃんは意外そうな顔をした。
「あら、あなたが心配してくれるなんて珍しい」
「そりゃするよ、ママも電話で言ってたし」
翔平くんを見た時のお姉ちゃんの動揺ぶりは尋常じゃなかった。それなのに、私に高橋の息子の事を何も聞いてこない。
聞きたくないのか、いやそれは違う。私には分かる。
「平気、ただの貧血よ。台風やら停電やらでバタバタして気疲れしたのもあるかな」
そんな普通の顔をして味噌汁をかき混ぜながら、今お姉ちゃんの頭の中は高橋でいっぱいのはずだ。支えてくれる野上さんではなく、自分を捨てたあの男で。
高橋の息子に抱かれた私には分かる。それほどあの男の放ったDNAは強烈だった。
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