不純愛DNA
[あの日の少年](1/30)

あの日の少年



バイト先の扉から外に出ると、来た時とはうって変わってひんやりした風が肌を撫でた。


昼間はまだまだ蒸し暑いのに、夜になるとぐっと気温が下がってくる。これからは羽織るものを持って来なきゃ風邪を引きそうだ。


通りの向こう側にハザードランプを点けた白の車を見つけて、一目散に駆け寄った。


助手席のドアを開けると、笑顔の野上さんが迎えてくれる。


「ごめんなさい、わざわざ迎えに来てもらっちゃって」


「ううん、全然」


にこやかに車を発進させてくれるけど、時計は10時過ぎだ。普段なら野上さんはとっくに帰ってる時間だった。


「こんな時間まで残業させられてたの?」


「させられてたわけじゃないよ」


「だって野上さん、いくら残業しても月給制だからお給料変わらないでしょ。その上パパの心配症に付き合って私の迎えまで引き受けて。運転手じゃないんだから、パパにきつく言っとく」


本心では来てもらって嬉しいのに、パパには悪者になってもらう。


「やめてよ、社長に頼まれて来たわけじゃないんだ」


「え?」


「自主的だよ、自主的。社長を言い訳にしちゃったけどぼくが心配だったから来たの」


「そんな事言って。自分が送ったから迎えにも行かなきゃって責任感でしょ」


甘い言葉を言われても、不用意に喜ばないように自分に予防線を張る癖がついていた。


「違いますー。可愛い楓ちゃんに何かあったら大変だって親心だよ」


親心。ほらね、やっぱりそう来たか。予防線を張っていてもがっかりせずにはいられないバカな私。


私は野上さんにとっては永遠に可愛い楓ちゃんなのだ。恩ある社長の娘で、


「愛するすみれちゃんの妹だしね」


「まあ、それもある」


プロポーズした事を私に話したから気を許したんだろう。野上さんは臆面もなく惚気てみせた。






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