不純愛DNA
[prologue](1/4)
あれは私が小学生最後の夏だった。
8つ年上のお姉ちゃんが職場の上司と不倫しているのが発覚して、周りは大騒ぎになった。普段大人しいお姉ちゃんが両親の猛反対を押し切って家を出て、男とどこかで暮らし始めたのもつかの間。
たった3ヶ月で家に戻って来た。
お姉ちゃんは会社にもいられなくなり、退職して毎日部屋に閉じこもって泣いていた。ご飯もほとんど食べず、ただでさえ細いのにどんどん痩せていった。
本気だったのはお姉ちゃんの方だけで、ようは遊ばれていたのだ。子供の私にでも分かるお決まりの破局だった。
それから夏休みに入ってしばらくした頃、
「楓ちゃん。…久し振りに出掛けたいの。付き合ってくれる?」
ずっと部屋から出なかったお姉ちゃんが、私に声を掛けてきた。青白い幽霊のような顔に引かれた真っ赤なリップを、やけに鮮明に覚えている。
「うん、いいよ」
私はふたつ返事で付き添った。コンビニでもカフェでもどこでもいい。お姉ちゃんの気晴らしになるなら…。
でもこれは、後で思えば過敏になっていた両親の目をごまかして外出するためだった。私が連れられて行ったのは、お姉ちゃんと男がほんの少しだけ暮らしていたアパートだったのだ。
かんかん照りの昼下がり、駅からかなり歩いたへんぴな場所にそれはあった。二階建ての、いかにも間に合わせで借りたような安っちいぼろアパート。
お姉ちゃんは敷地には入らず、いや、入れなかったんだろう。じっと道路脇に立ちすくんでいた。
小学生の私は夏休みだけど、その時は平日の真昼間だ。男が在宅してる可能性は低い。会えないのにどうしてこの時間に来たんだろうか。
何をしたかったのかなんて、お姉ちゃん自身にも分かっていなかったのかもしれない。
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