隣の背中
★He took his glasses off(1/4)
新学期、クラス替えをしたばっかりのぎこちない空気の残る教室。
1年の時に一緒にいた友達と同じクラスになれたのは運がよく、朝家を出る時の緊張は、だいぶ解れていた。
今年も平和にやっていけそうだな。
こんな事を心の中で呟きながら、学校を一歩抜ければ、そこからはもう一つの教室への道へと続く。
高校入学と同時に通いはじめたこの絵画教室は、」代々、美大から優秀な人が紹介されて講師のアルバイトをしている。
それを聞いて、わざわざ学校から家へ向かう方向とは逆に3駅進んだこの場所であっても選んだのです、が。
今目の前で、私渾身のデッサンを見ている人は、今時存在してるのかっていう分厚いメガネと目が隠れる長さの前髪で、ちっとも表情が読めない。(ある意味では芸術家っぽい)
しかも、ギリギリ結べる長さの襟足を一つに纏めている髪型と、 ハイウェスト過ぎるジーンズ(もちろんシャツイン)な姿は、美大というより都内某所の方がよっぽど似合っている。
「人っていうよりキャラっぽい。っていうか線の重なりにしか見えない」
レッスンが終わり数分が経って、いつの間にか私と講師以外には誰もいない教室。
画材の匂いを鼻に吸い込み、いつまで無言なのかとため息をつきかけた時に聞こえてきたのは、心に刺さる単語の羅列だった。
継続は力なり。
私としてはこの一年でいかに自分が感覚だけで絵を描いてきたのかを思い知ったし、たくさん練習だってしてきた。
だから、ちょっとはその成果が表れているのではないかと期待していたのに。
「キャラ……線の重なり……です、か。そんなに私の絵、下手ですか」
「技術的には上手いよ。でも、対象物の表面しか捉えてないから、全部が嘘くさく見える」
あなたの見た目よりも嘘くさいですか、と言いたかったけど、言える訳もなく。
「じゃあ、何が足りないって言うんですか。技術をあげても線の重なりにしかなってないなら、どうしたらいいのか分かりません」
代わりに出てきたのは、ただの泣き言。
唯一よかった点は、その泣き言を涙を流さずに言えた事くらいだろう。
「足りないっていうより、もっと心を豊かにっていうのかな。恋したり、人と深く関わってみたり。ちゃんと人を見てないのはとりあえず伝わってくる」
分厚い眼鏡と前髪でひたむきに顔を隠しているアナタに、そんな事言われたくないです。とも言えない自分が、ダメなのだろうか。
でも、これはもう高校生であれば心に押しとどめておくべき内容なはず。
「私、これでも勉強の為に人の身体とか動きとか、結構見てると思うんですけど」
「あー、そういう見るじゃなくて、もっと中身に興味をもったり想像してみたりってことなんだけど」
「じゃあ、先生はどれだけ見てるって言えるんですか。2次元にしか恋できなさそうな雰囲気を醸し出してるくせに」
あっ、ヤバい。と認識したときには、大体の事は手遅れだったりする。
私は、踏んではいけない地雷に、踵落としをかましてしまっていた。
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