隣の背中

★intro(1/1)


「はぁ? なにを言うとんのアンタは。高校行かんとマンガ家のアシスタントになりたい? 家にきちんとお金入れるとか入れへんとか、そんな問題じゃないんよ。 大体、ウチは裕福やないかもしれへんけども、お父さんは人並み以上に頑張って働いてくれてるし。 アンタが絵描くのが好きなんも、アンタが人並み以上に絵が上手なんもお母さん知っとるけども、それとこれとは話が別やわ。 本気で絵を描くのを仕事にしたいんやったら、本気で勉強せないかん。 上手いだけのコなんてなぁ、アンタ、その辺にいっぱい転がっとるんよ。 本気だってお母さんに証明したいんなら、美大に行きなさい。 美大に行ける実力もないのに、人様からお金貰える仕事なんてできる訳ないんやから。 それにな、どんな仕事でもそうやけど、必要なのは技術だけやない。 その人の魅力もあって、初めて人は誰かに仕事を頼むんや。 アンタに今必要なんは、どっちかって言うたらその魅力やとお母さん思うで? 高校生でしかできへん経験も自分から遠ざけとったら、アンタ、ただの絵描くマシーンやで。 そんなんお母さん嫌やわ」

中学3年の時に、高校へは行かない、絵の仕事をしたい(マンガのアシスタントは例えの一つであって、マンガ家になりたいともなれるとも思ってはいない)と勇気を振り絞って言った私に返ってきた、愛あるお母さんの言葉がこれだった。


ぐうの音も出ずに「分かりました」としか言えない自分の甘さ。

それを突きつけられては高校進学は避けられない。ただどうせなら、美術系の高校へ行きたいと主張してみたら。

「アンタお母さんの話ちゃんと聞いてた?高校へは、吉川ひなたの人としての成長の為に通いなさいって言ったんよ。自分の生き方を決められるほど、アンタは人間として成熟してないって事。専門的な勉強の前に、色んな事に顔つっこんどきなさい」

「……はい、分かりました」

同じ台詞を繰り返すだけしかできなかった。

それから、偏差値と距離との兼ね合いがつく学校を選んで無事(なんとか)合格。

高校合格と同時に、絵の教室に通うことと、その授業料は自分のバイトで稼ぐ約束が新たに追加された。

口が達者で明るく誰とでも打ち解けられるお母さんの遺伝子は、私には受け継がれていないらしく、小さい頃から絵を描くことが大好きで、外で遊び回るより、紙とペンを好むちびっこであり(あいにく今でもちびっこなのだが)地味っこでもある。

友達作りという高校生活最大の不安事は、こんな私でも仲良くしてくれる、同じ文化系の匂いを漂わすクラスメイトのおかげであっさり解消し、クラスの中では風景レベルの存在感しかなくても、それなりに楽しく毎日を過ごせていた。

たまに、頭を過ぎる、お母さんの行っていた高校生でしかできない経験。

その答えを探すのもおこがましい気がするまま、気付けば高校生活も1年終わってしまっていた。
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