ひとつ屋根の下
家庭訪問(1/6)
「家庭訪問?」
放課後、美鈴に担任から言われたことを伝えると、美鈴は驚いたように目を丸くした。
そりゃそうだ、この歳にもなって家庭訪問なんて馬鹿げてる。
だがそれも大切な行事のひとつだろう。
今回は担任の独断で行われるのだが。
「日向先生が私が下宿に入ったからやるって。
どんな環境下で生活してるのか見たいらしいよ。」
「去年、天くんの家庭訪問だって言って来たけど、また今年もやるんだ。
熱心だねぇ、若ちゃんも。」
「若ちゃん?」
耳慣れない呼び名に首を傾げる。
「知らない?日向先生って日向若菜って名前なんだよ。だから若ちゃん。
結構皆そう呼んでるから椿みたいに『日向先生』ってちゃんと呼ぶ人ってレアケースなんだよ。」
「そうなんだ…。」
好かれるタイプ、ではなく既に好かれている教員だつたのか。
確かに人の良さそうな顔してるもんなぁ。
「で、美鈴はいつが空いてる?バイトとかあるでしょ?」
「そうだね、ちょっと待ってて。」
美鈴は鞄から可愛い花柄のスケジュール帳を取り出すと、今月のページを開いた。
所々予定が書き込まれ、数字だけが書かれている日もある。
「この、数字だけ書いてある日が私のバイトの日なの。
数字の意味は出勤時間ね。」
「ふーん。」
ざっとかぞえたところ、15日程バイトの日があった。
私はバイトもしていなければ部活動にも入っていないから予定なんて無い。
美鈴が都合のいい日に合わせる気満々だ。
「なるべく早い方がいいよね。
6日は?」
「6日?暇だけど。」
「よし、じゃあ6日に決まり!
若ちゃんには椿から言ってくれる?
家庭訪問されるのは椿だから。」
「それはもちろんだけど、本当に蛍さんの許可無しに私達で決めちゃっていいの?」
「いいの、いいの。
どうせ蛍さんは居ないんだから。」
美鈴は決定事項のように言い、納得するように頷いた。
私としては全く納得していない。
というより、納得出来ない。
だって家主は蛍さんなのにそんなに勝手な…。
「椿、6日空けといてよ。」
「うん、もちろん。」
それはもちろんだけど。
でも担任も言ってたしな。
『本来ならその雇われ大家からも話を聞くべきなんだろうが、生憎と私はソイツとそりが合わないんだ。』って。
知り合いなのは知り合いなのだろうが、合わないのならそりゃ、出来るだけ会いたくもないだろう。
だがいくら担任といえど他人は他人。
ちゃんと蛍さんの居る場で家庭訪問をした方がいいのではないか。
さらに言うなれば家庭訪問というのはその人がどういう環境で暮らしているのかを見るものであり、尚更蛍さんと話をしておいた方が良いと思われた。
そういうのを見るのだって担任の仕事のはずでしょ?
私達が勝手に決めるのは、少し違う。
まあ、家庭訪問がどんなものか私なんかが知ってるわけがないんだけど。
モヤモヤと考えている内にチャイムが鳴り、私は急いで席に着いた。
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