ひとつ屋根の下

委員会(1/10)




「ふあぁ。」




大きく伸びをして、何もかもを吸い込みそうなくらい口を開ける。

凄くブサイクな面をしているのは自覚済みだが、この眠気を抑える気は無かった。

あくびくらい好きな時にさせてくれ。




「椿、あくび大き過ぎだから。」


「だって眠いんだもん。
昨日は歓迎会だなんだって悪酔いした蛍さんに絡まれまくったし、しかもあの人昨日のこと何一つ覚えてないし。」


「あー、蛍さんはね。」




蛍さんは酒に酔いやすく、昨日はあっという間に酔ってしまった。

それを自身の中で解決出来るのならまだしも、周りに絡み出すからタチが悪い。

適当にあしらってもしつこく引き下がってくるし、普段の鋭い眼光も形を潜めてしまっていた。

部屋に戻ろうとしても足を引っ張られてなかなか立ち上がれなかったし。

しかもそのまま寝るし。

そんな彼は天と日々谷くんによって大家部屋に押し込められてしまった。

そして今日の朝、何もかもきれいさっぱり忘れた彼はいつもの通り振る舞い、鋭い眼光で睨まれ。

もう全てが理不尽でムカついて、一発ぶん殴りたくなった。

そんなことはしないけれど。




「蛍さんってお酒好きなのにすぐ酔うから面倒なんだよね。
今度からお酒飲みだしたら一定の距離取った方がいいよ。
近くに居るとロックオンされてつきまとわれるから。」


今度からそうする。」




頬杖をつき、溜息をつく。

今度からは絶対にお酒を飲む蛍さんには近づかないと心に誓う。

でも、あんなに上機嫌な彼を見たのは初めてだ。

あんな風に相好を崩して笑えるんだ、ってちょっと意外だった。




「誰か体育委員やってくれる人居ないー?」




教室に女の子の声が響き、私は教室の前方に目を向けた。

今は委員会決めをしている時間で誰が何の委員になるか話し合っている最中だった。

どこの学校でもそうだと思うが、学級委員を決めるのにとても時間がかかり、結局ジャンケンになってしまったのだが、学級委員が決まったからと言って残りの委員会がホイホイと決まる訳でもない。

体育委員が残っている。

体育委員は体育の授業の時点呼を取らなければならなかったり、皆の前でラジオ体操をしなければならなかったりと案外面倒くさい。

更には先に体育委員になった男子が「俺のこと好きな奴は今がチャンスだぞ!」と囃し立てるものだから下手に挙手することも出来ない。

面倒くさいことこの上ないこの状況を打破することなんて出来ないのだ。

そんな中、スッと手を挙げる影がひとつ。




「お、田中?体育委員の男子枠はもう埋まってるぞ。」




学級委員長の男の子がキョトンと目を丸くする。

天はふるふると首を振る。




「違う。僕、図書委員になりたいんだけどいい?
男子はもう体育委員決まってるんだから先に進めてもいいでしょ。」


「あぁ、そっちな。
他に図書委員なりたい奴いるー?
居ない、な。じゃあ田中が図書委員で。」




それを聞いて副委員長の女の子が黒板に天の名前を書いた。

そして瞬時に殺気立つ教室内に、私はゾッとして身体を起こした。

女子達の目がギラギラと輝き、黒板の一点を見つめている。

急にどうしたんだ、とドギマギとしていると美鈴がクスクスと笑った。




「天くんが図書委員になったもんだから皆図書委員になりたいんだよ。
天くん、モテるから。」


「あぁ。」




天が好きだから一緒の委員会になりたい、というなんとも思春期特有の行動か。

私は何でもいいから早く帰りたいんだけどな。

体育委員にはなりたくないけどそれ以外の委員なら何でもいいし。

興味を無くし、再び頬杖をつく。

話し合いは体育委員で止まってしまっている。

だが、この状況下なら尚更体育委員に名乗りをあげる者は居ないだろう。




「あのー体育委員、なりたい人いないですか?」




学級委員長はすっかりオドオドしてしまい、なぜか敬語口調になってしまっている。

だがクラスの頭からは体育委員なんて選択肢は完全消滅してしまっている。

狙うは図書委員のみ。

こんな殺伐とした空気にした張本人は我関せず、と言った感じで小説を読み始めた。

自由だ。




「ねぇ、もう体育委員は後で決めてさ、先に違うの決めない?
他の委員になりたい人も居るかもじゃん。」




誰かがそんな提案をする。

早く図書委員になりたいのだろう。

学級委員長はもう何も逆らえず、「じゃあ図書委員になりたい人」と小声で呟いた。

その瞬間にズラズラと並ぶ手。

その中には美鈴の手もあった。




「え、いや、ちょ多すぎっていうかこれ女子全員じゃない?
て、藤島までなに手挙げてんだよ!
お前副委員長だろ!」


「辞退します!」


「やめろ!」




もうこれでは埒が明かないし、じゃんけんをするのも面倒だった。

学級委員長は溜息をつき、ふと顔を上げた。




「そうだ、もう話し合うのとかもダルいし田中が決めたら?
図書委員って一年間変わらないからやりやすい奴とがいいだろうし。」




全ての責任を放り投げ、天に無理矢理押し付ける。

何かしらの方法で決定してもどうせ自分が責められるだけだとよく状況を理解しているらしい。

だが、天の決定なら誰も文句を言うまい。

女子達の目は天に集まる。

天は面倒くさそうに顔を顰めた後、教室を見渡し、一言呟いた。




「椿。」




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