母を殺害せしめたのは誰か








 白い花と朱色の花

 空はすっかり晴れていた。玄関を出て階段をおりると、取り残された雨の匂いに混じって甘い芳香が身を包む。アパートの門を挟むように植えられた庭木は今年も綺麗に開花したようだ。あと数日もすれば白い八重咲きの花が門を彩るのだろう。
 友人は、茜色を映してきらめく水たまりをぱしゃりと踏んで、行く先へと足を向けた。
「寝床くらいは貸すのに」
「あいにくだが遠方に出向く用があってなー、これから夜行バスよ」
「仕事かい」
「おうとも」
 友人は手品師だ。ただし売れてない。
「そういやお前さん、」
「?」
「すっかり忘れていた、とかぬかしてたわりにちゃんと解いてたじゃないか。学生からの挑戦」
「え?」
「学生の創作で、解いてくれと挑戦受けてたんだろう? あんなにスラスラと解答してみせたのだからさては喧嘩を買ったときにはすでにたどりついていたな? 真犯人へ」
「ああ、うん……まあね。喧嘩でも挑戦でもないけどね。鍋島が見つけなければきっとずっと忘れていただろうから、正直助かった」
「教え子達と仲良くやっているようでよきかなよきかな」
 かっかっか、と時代劇じみた笑い方をして、友人――鍋島は肩をすくめた。
「篠はけっこうめんどくせー性根してるからなァ?」
「次からは野宿でたのむ」


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