鬼哭啾啾
*[黄昏刻](1/16)
勾玉
黄昏時は逢魔が時――――
夕暮れ時のその薄暗さから、得体の知れぬ何かが蠢く頃だというこの異称。薄暗くなる頃合には人と出逢ったとしても、その人が誰か、何か、判別し難い。
――――たった今、すれ違ったのは、本当に知っている人だったのか。
知っている人だと思い互いに今晩は、と挨拶したとしても、背を向けた途端にそうした疑心が生まれる。
また、ちょっとした音や普段耳にする声すらも、疑心に塗り変えられて恐怖が産声を上げ始める。
そのような何とも言えぬ薄気味悪さから来ているという説がある。
朱に染まっていく空を見上げながら少女はほう、と息を吐いた。
随分と遅くなってしまったものだ。病に倒れた学友を見舞ってお喋りに花を咲かせてしまった数刻前の自分が恨めしい限りである。
徐徐に暗くなっていく辺りを見渡しながら、迷信を妄信する祖父を思い浮かべた。
成程、確かにこのような刻限であれば祖父の言うことも多少は信じられる。
目や耳を半端に塞がれたようで、何か心がそわそわと収まるところに収まってくれない。
思わず胸に拳を握った右手を強く当てる。
少女の家は古い神社。そのために神主である祖父はその手の話に事欠いたことはない。
しかし、神主の孫娘は祖父の話を鵜呑みにすることは無かった。
祖父を馬鹿にしているわけではなかったが、日々の生活にはそれらは何ら役立たないものだった。
だから、彼女は迷信だと切り捨て、不要なものとしか見なしていなかった。
黄昏時に独りで何かと行き交う羽目になった、今日までは―――――――。
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