[残酷な真実](1/14)
[Side 桜井 恭司]
「クソッ、アタシのせいだ!!アタシが巻き込んだばっかりに…」
ガンッと壁を叩く初瀬。
コイツのこんなに悔しそうな姿は初めて見た。
伊丹が死んだ翌日、俺と麻理抄は再び初瀬の家を訪れていた。
昨日の晩は、怯える麻理抄と一晩中電話で話す羽目になった。
いや、こんなことでもなければ、麻理抄と一晩中話すことなんてないし、不謹慎ながらちょっとだけ幸せを感じていた。
『羽目』という表現は違うかもしれない。
しかし、そんな場違いに浮ついた気分も夜が明けるまでだった。
今朝、伊丹が死んだ知らせを受けたからだ。
俺にも悔しい気持ちはある。
だけど、初瀬のように単純に悔しがってばかりいるわけにはいかない。
なぜなら、このままでは俺と麻理抄に危害が及ぶのは時間の問題だからだ。
こんなことが起きた以上、初瀬に今までと同じように協力を頼むのは難しいかもしれない。
だけど、俺は暗号を解くのは得意とは言えない。
初瀬なしで、あとがきから逃れることができるだろうか。
「初瀬、こんな時にすまないが……力を貸してくれないか?麻理抄を助けて欲しい。どうしてもおまえの力が必要なんだ」
断られるのは覚悟の上だった。
そうなればやむを得ない。
確率はだいぶ下がるが、俺と麻理抄だけで暗号をなんとかするしかない。
「オマエに言われるまでもない。こんなところで引き下がれるか。犯人め、この借りは高くつくぞ」
初瀬は、赤く泣きはらした目に剥き出しの闘志を浮かべていた。
コイツが中3の時、生徒会執行部が解決困難と言われてきた課題をいくつも解決して見せたのを思い出す。
今わかった。
コイツが歴代のS中生徒会長の中でも、1、2を争う優秀な会長と内外から評価されていた理由が。
この気概あってこそ、だったんだな。
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