歪な愛(1/26)
先生の部屋に戻ってきて、冷静に考えると、
いつでも帰れるはずだった場所が、なくなってしまった。
今まで、あそこだけだったけど……、母が帰ってきた家には、正直 帰りたくない。
先生は、ここに居ればいいって言ってくれてるけど、その言葉に甘えっぱなしでいいのか…
考えれば、考えるほど、分からなくなってくる。
なかなか寝付けずにいると、仕事をしていた先生が、窓を開けて テラスに出た音が聞こえてきた。
ベッドから降りて、先生の後を追う。
外に出ると、冷たくなった夜風が、考え過ぎて熱くなった身体を冷やしてくれる。
「起こした?」
タバコに火を付けた先生が、小さく煙を吐くと、申し訳なさそうな顔をした。
「違います。
ちょっと 寝付けなくて…」
先生の隣に並んで、下を見る。
夜遅いのに、あちこちに家の灯りが見える。
みんな、自分の居場所が ちゃんとあるんだ…
「どうした?」
優しい声音とは裏腹に、何故か 頬っぺたをつねられる。
い、痛いんですけど…
「何、するんですか?」
軽くつねられたまま、先生の方を見ると、吹き出すように笑い出した。
……人の顔を見て笑うなんて、最低ですよ。
「変な事で悩んでますって顔に書いてあるから。」
不意の先生の言葉に、思わず顔を背けようとしてしまう。
実際に書いてあるわけないのに…
p.369
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