言えない気持ち(1/18)
「ただいま」
誰もいない空間に、私の声だけが響く。
これは、もう慣れた。
……はずだったのに、先生と過ごした あの日々だけで、私はダメになった。
家に帰れば、誰かがいる…
生活音で起きる幸せを知ってしまったから。
ここが、寂しくて哀しい空間なんだと、改めて実感させられてしまった。
自分のベッドに座って、鞄から携帯を取り出した。
佐竹君と、ちゃんと話さなきゃ……
とりあえず、メール……
何て送る?
………
………
考えれば考えるほど、分からなくなってくる。
その時、携帯が鳴った。
ビックリして、思わず落としそうになりながらも、電話に出た。
『帰った?』
『うん。』
先生から。
『おかえり。』
『……ただいま。』
先生って怖くなるほど、私の欲しい言葉を欲しい時に言ってくれる。
先生は、この家に誰もいない事を知ってた。
どこまで…?
先生は、私のどこまで知ってるの?
『……先生、』
『ん?』
『先生は………、何でもないです。』
p.97
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