誘惑ハニィ
[1.二面的な彼女](1/13)




「緑丘椎さん……!
入学式の時、君の姿を初めて見て、一目惚れしました!
最初は寮に入る気無かったけど…
君を追いかけて、寮に入ることに決めました!
まだまだお互い知らないことばかりだけど…僕と椎さんは、動物占いでは相性抜群だし、
きっと幸せにするから……!だから……!
僕と付き合ってください!!!」




……っおお。


何かの安いドラマかと思ったぜ。


こんな所で普通、告白するかーーーー?



俺は、缶ジュース1本買いに来ただけだっていうのに。


これはしばらく待たされるやつかな…






一枚壁を挟んで向こう側。


二人の男女が愛のメモリーを繰り広げている真っ最中。


俺の用のある愛しの自動販売機ちゃんもそのスペースにあるわけで。



こんな告白の最中に出ていけるはずもなく。


気を使って、告白劇場が終わるまで……ここで待機するとしよう。






自然と、聞き耳を立てる形で。


俺は壁に寄りかかり、一緒になって返事を聞くことにした。




「……えっと、ごめんなさい。
まだあたし、付き合うとか好きとか、考えたことなくて」



………可愛らしい声。


俺の好きな、声だ。




ということは、やっぱり告白されてるのって…


椎か?


緑丘椎。高校1年。




嘘みたいに可愛らしい人形みたいな顔立ちで。


健康的な程度に細くて華奢で、色白で。


成績も良ければ運動神経もいい。


そして性格もまさに天使。





いつもニコニコしてて…あの微笑みに、毎日癒されてます。えへ。






万人が万人、皆可愛い!と声を揃えるんじゃないかーーーっていうくらい


完璧すぎる女の子。






「僕と君は、動物占いでは相性抜群なんだよ?」




だからさっきからなんだよ、動物占いって。


普通の血液型とか星座占いでは相性どうだったんだって話だ。




「ごめんね…?」



ズキュンッ


ここまで男のハートを撃ち抜く音が聞こえてきたぞ。


なんっつう威力だ。




「……僕が焦りすぎたみたいだね。
君の気持ちが追いついてからで一向に構わないよ。
またいつの日か君の気持ちを聞かせてもらうね」



「うん、ありがとう原田くん」




あー…原田って…あれか、あの…


the変人ってあだ名の。



椎も、いろんな男に好かれて大変そうだな。


かくゆう俺も、椎のことが好きだし?




なんかごめんって感じだ。




ガラッと扉が開いて、俺も壁に寄りかかるのをやめる。


足早に出てきた原田の目は、ちょっと潤んでいる。






口ではポジティブだけど内心傷ついてたんだな。


そりゃそうか、振られたらそうなるわな……




一度閉まった扉を開けようと、手をかける俺。







ん?


今入ったら、椎と鉢合わせるよな?


それって俺が聞き耳立ててた感が凄くてやだなあ……


俺が女だったら、好感度ダダ下がりだ。





ここは大人しく、椎が出ていくのを待とう。










………この選択肢が、今後の俺の人生を左右することになるなんて、考えもしなかった。











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