変わることのない絆はきっと
[キズナ合宿A](1/2)
-side橙-
ピピピピ、ピピピピ、と誰かのスマホのアラームが鳴る。誰か、なんていうのは本当は間違いかもしれない。頭の中には明確に一人しか思いつかないのだから。
あー、うっさい。もう少し寝かせてくれ。
俺が自分の毛布を鼻まで被ろうとした時。
「あー...よっし...お前ら起きろー」
我らがリーダー、浦田直也がそう声を出した。
その声にみんなもぞもぞと動き出す音がする。多分秀太と與辺りが起き出しただろう。日高はまだ夢の中にいるかもしれない。
俺も、もう少しだけ。
「はーいにっしーおはよー」
「うわっ、ちょ、直也く...」
「秀太は日高叩き起こせ」
「りょーかい。日高、起きろ。起きなきゃ殴るぜ」
直也くんによって、俺の毛布は剥ぎ取られた。ええい、こうなったら毛布なしでも寝てやる。
「王子はにっしーに抱きついて頭覚醒してあげて」
「何で俺が抱きつくん!?普通に嫌や!!」
あー、與におはようのハグしてもらえんだ。ならもう少しこのままでいよっかな。
「...ったく、仕方ねぇ奴らだなぁ。んじゃ宇野ちゃん呼んで来て」
「あ、それなら了解や。実彩子に寝起きにっしー見てもらお」
!?
ちょ、今何つった!?
「ちょいちょい待って起きてます西島起きましたー!!」
「おーっす、おはよにっしー。はい顔洗ってこーい。じゃなきゃ宇野ちゃん呼ぶぞー」
「ちょ、直也くん!!あーもう俺何で話したんだろ...」
「可愛いなぁ」
「うっさいー。ばーか、直也くんなんか大っ嫌いだからねー!!」
ブツブツ文句を言いながら、洗面所へと向かう。
昨夜、ここでボーイズトークという名の恋バナ会が行われた。最初は日高から。男だけってこともあって、かなり際どい話で盛り上がってたら、日高がいきなり女子メンの話をし出した。腹チラとかダンスの時するよなー、とか、そんなとこ。それから何故かわかんないけど、俺は恋心を打ち明けてしまった。合宿テンションのせいだと思う。
てか、気づいたら俺しか好きな人言ってねぇし。まじ不公平じゃんそれ。
まぁ、他の人が宇野ちゃんが好きだって言われても正直困るし。いっか。少しからかわれるくらいなら。
「西島ー。早く顔洗わねぇとお姫様呼んでくるぞー」
「っうっせぇ秀太!!」
前言撤回。全然良くない。
***
「よし、今日はここまで!!」
「え?ここまで?」
直也くんに言われ、時計を見る。まだ10時になったばかりだ。練習していた時間は多分、2時間くらいしかないだろう。
「早くね?」
「いや、これからがこの合宿の醍醐味ってわけ」
「え、練習終わったのに今からなん?」
「そう、今から。いいかお前ら、この合宿の本来の目的を忘れてもらっては困る」
「はぁー?」
直也くんの意図が全くわからず、隣にいた日高と顔を見合わせる。日高も頭の上にクエスチョンマークを浮かべてる。流石にこれは察せないようだ。
「...ったく。いいか、これはキズナ合宿だ!!」
「うん?」
「き、ず、な!!深めるためにやってんだよ。ただの強化合宿とは訳が違う」
「え、じゃあ今からゲームとか?」
「いや。今日の昼飯はない。だから、って言えばそろそろわかるか?」
「...まさか、作れ、と...?」
「にっしービーンゴ」
マジでー?と室内がどよめく。
そらそうだ。何たって俺らは寮生。台所に立って自炊とか、いつからやっていないと思っているのだ。偶に家庭科でやる調理実習くらいでしか、包丁は触らないくらいだ。
でも、まぁ、楽しそうではある。
「てなわけで、役割分担します」
「役割?」
「聞いてびっくり、実は食材も自分たちで集めまーす」
「はぁ!?」
さっきまで楽しそうだとか思っていたのに、その一言を聞いて一気に不安になる。
いや、ねぇ、自分たちで集めるとか、アホでしょ。いつ昼飯にたどり着けるのかって...。
「3グループに分かれるからくじで決めるぞー」
「リーダーなんか楽しそうだね」
「そりゃ楽しみなもんだろ。さぁ引いて引いて」
ぶぅ、と人より厚い唇を突きつける。
「よーしみんな持ったなー。せーのっ、ドン!!」
俺が引いた割り箸の先には1、という数字が書いてあった。
1、かよ。てっきり役割の名前が書いてあるかと思えば。
「俺2や。2の人ー」
「あ、真ちゃん一緒だー」
「ほんま?俺ちーちゃんと?不安しかないのは気のせい?」
「こらー!!」
「俺1。秀太は?」
「3」
「お、日高1?俺と一緒じゃん」
「えー、にっしまとー?」
チラリ、と彼女の顔を盗み見る。がく、と大げさにしゃがみ込む宇野実彩子。多分だけど、千晃がいる2ではないのだろう。
と、いうことは...俺と一緒か、秀太と一緒。
でも何となく、その反応で番号がわかった気がした。
「...私日高くんとにっしーと一緒なんて...ね、もう一回引かない?」
「やだねー。直也くんと一緒とかめっちゃ頼りがいあるし」
「おい宇野。俺らじゃ不満かー」
「両手に花じゃん」
「どこがよ!!てか男だし...あー、もうやだ」
「つべこべ言うなって。んじゃにっしー班と王子班は材料調達。俺と秀太は下準備しておくから」
「はいはーい。とりあえず近くのスーパーでええんよな?」
「うん。この辺自然豊かだから一応好きにしていいよって指示ももらってるんで、釣りとかもできるなら魚は安売りできる」
釣りとか、簡単に言ってんじゃねぇよ。
「まぁ、とりあえず頑張りな?それぞれの頑張り次第で、自分たちの飯がかかってると思え。な、にっしー。浮かれるのものほどほどにな?」
「ばっ、直也くん!」
俺の好きな人が本人にバレるまでなんて、時間の問題だろう、きっと。
くっそー、このやろからかいやがって。こうなったら満喫してやる。
「んじゃにっしー達は釣りとか自然食?担当な」
「えっまさかの年下與からの謎の指示。そして自然食って何だ」
「しんじろー、メンバー変更ならまだ遅くないよ。ね、にっしーと日高くんと組みたくない?」
「組みたくない。千晃行こ」
「この薄情者ー!」
日高は直也くんから釣りの道具を貰いに行き、宇野ちゃんは千晃と肩を並べて歩いている與さんに頬を膨らませている。それを後ろから眺める俺。
...練習の後だから、つけてるシャツがほんの少しだけ、透けてる。なんて、俺はいったいどこを見てるんだ...。
「...今日を乗り越えられる気がしない...」
珍しく盛大についた溜め息は、メンバーの声にかき消されていった。
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