gift-貴方が与えてくれたもの
【4】[旗はどこにいったのよ?(後編)](1/4)

慌ただしく、カヲルのお弁当を詰めながら、目を離すとすぐに脱線して遊びだす、かな太の着替えや登校の支度に声かけをしている最中に、いつになく早々と、カヲルが二階から降りてきた。

「お母さん、遥のヤツ、腹痛いってさ。夜中、吐いてたみたいだよ。」
「え…。」

―来たか〜………。

ちょっとの間、動きが止まった私を、かな太は不思議そうな顔で見上げ、こっちもトーストしたジャムパンを食べる手が、お留守に。コラ、早く食え、時間ないぞ、カヲルに言われて、また、パンにかぶりつく。

「夜中、って、何時頃?」
「さー?あ、2時くらいじゃね?俺、ケータイでマプロス観て、それからネットの掲示板見てて、寝たのが1時半くらいだったから。そのちょっと後だった。」
「ああ、そうか…。」そう言えば、夜中に誰かトイレ使ってたみたいだったっけ。

噂をしてたら、本人が登場した。両手をだらん、と、前に垂らし、一段と猫背でのっそのっそ…「父は原始人で、母はゾンビです」みたいな顔で、げっそりとした表情のまま、ソファーにぐたっ、と、へたり込む。

「遥、お腹痛いの?」
「うん、寝てから痛くなって〜、夜中に吐いた。胃になんにも入ってなかったから、胃液だけ出てきた。」
「あ…そお…。」余計なとこリアル。いや、律儀。「ご飯、食べる?」
「いい。まだ、気持ち悪い。」
「ふーむ…?」

額に触れてみたが、熱くはない。食いしん坊の遥が「食べない」のは、相当に不調な証拠だけど。

「熱は無いね。鼻水出てるけど、喉は?」
「別に〜。咳がたまに出るけどぉ。」

―う〜ん。どっちかなぁ…?

風邪か?それとも。時計を見上げると、7時半。どっちにしても、今日の集団登校は無理だ。

「遥、一旦、寝てな。かな太送ってから、病院行こう。それまで。」
「うん、分かった〜…」
覇気のない後ろ姿で、遥がのそのそとキッチンを出るのを見送って、私は、エリカちゃんの家に電話を入れた。

「あら〜、遥くんダウン?」
「うん、朝ご飯食べないって。悶絶して寝てる。今日の班長さん、代理ヨロシク。」
「分かった、エリカに伝えとくね。今、B型インフルエンザ流行ってるらしいよ、お腹に来るって。」

エリカちゃんのお母さんはナースで、勤務先は、我が家のホームドクターの内科小児科医院だ。

「え、ホント?」
「うん。高熱と、腹痛。遥くん、熱は?」
「それが、無いんだよ…鼻水は出てるけど、風邪なんだか、心因性の腸症
候群なんだか、イマイチはっきりしなくて。」
「あ〜、例の…。」

エリカちゃんの母は、以前にも春先に、カヲル、遥、かな太、三人揃って、代わる代わる、ストレス性の胃腸症状でお世話になった時のことを覚えていたらしい。カヲルの医院通いが最も派手だった時には、私もストレス性胃炎になって親子で受診したこともあった。
ストレスは、「感染る」。多分。

「月末、修学旅行でしょ?気を着けてみてた方がいいよ。」
「そうだね、ありがとう。」

電話を切って、手早くお弁当を包み、カヲルにパス。一足先に、カヲルが自転車で出発するのを見届けてから、かな太にランドセルを背負わせると、もう、出る時間。かな太と二人、急いで家を後にした。

―何が、原因かなぁ…?ストレスだとしたら。

学級担任が変わったこと?教室の移動?それとも、余りにボロボロになって交代した手さげ?筆箱も、ファスナーを壊したから買い替えたけど、これは、自分で選ばせたし…

車を走らせながら、思いつくのは、大したことじゃなさそうな「変化」ばかり。それとも、年度始めの慌ただしい雰囲気の中で、次々と小さな「変化」が重なって起きるのが、辛いんだろうか?

―やっぱり、「班長さん」が、負担なのかなあ。

遥の、歩くスピードが速すぎる、と思ったのは、私だけではなかったらしい。今週から、集団登校の集合時間が10分遅くなって、遥は地区担当の先生から、もう少しゆっくり歩くように、注意を受けたそうだ。
学校では、他の事についても、6年生に「最高学年」としての自覚や責任を求められる指導は、既に始まっているだろう。それは、遥だけに言われていることでは無いのだけれど、他人の動向に注意を払うことが余り出来てない遥のことだから、「自分ばっかりに、難しい要求がされてる」と思っていなけりゃいいのだけど。

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