gift-貴方が与えてくれたもの
【2】[えんぴつを作って下さい(後編)](1/2)

電話が鳴ったのは10分くらい後だった。ディスプレイには、見慣れない市外通話の番号。

ワクワクして電話を取ると、関西訛りの男性が、K社の「相談窓口担当」と名乗って、田山さんから連絡を受けたと説明した。私は遥の障害と書字困難、「幼児えんぴつ」で矯正できそうなこと、の説明を繰り返し、

「それで、BやHBの、今の物より少し硬めの芯の「幼児えんぴつ」が欲しいんです。」と話した。
「はぁ…なるほど。高機能発達障害ということですが、診断は受けられたんですか?」
「はい、こちらの発達障害者支援センターと、子供クリニックで…」

「嫌な感じ」は、した。

「当社では、現行商品以外のものは出していないんですよ。本来は未就学のお子さん対象の商品で、「2Bまでで、しっかり握れるように」という考え方ですから。」
「ですから、先ほどお話ししたように、健常なお子さんとは違って、運動面の発達障害から、普通の太さでは、しっかり握るのが難しいんです。けれど、使ううちに筆圧も改善されてきましたから。」
「障害児も対象にしています。健常児だけではなく、障害児向けの商品です。」

―何、それ…?

カチンときた。

「じゃ、今の2Bでは柔らか過ぎるようになった子は、どうするんですか?」
「そういうお子さんは、普通の太さに切り替えていかれたらいいんと違いますか?高機能自閉症ということなら、視能検査はされましたか?」
「してません。必要という指示もされてもいませんので…。」
相手は、軽く笑ったようだった。
「視力検査じゃなくてですね…」

こちらが「視能」と「視力」の区別がつかないと誤解したらしい、嘲笑を含んだ口調に、つい、感情的になった。

「視能訓練を単独で、の必要はないそうです。ソーシャルスキルトレーニングやABC発達検査、WAISVは受けました。知的障害の無い、軽度の自閉症児ですが、発達協調性運動障害があるんです。児童精神科医や発達障害を専門に診ている臨床心理士3人が関わって、トレーニングを5年受けてます。それでも、まだ、筆圧だけは改善されないんです。」

一気に言い返してしまったのは、単純に、悔しかったのかもしれなかった。

遥が初めての発達障害の診断を受けたのは、小一の11月だ。
就学前の知能検査では、学習障害と言われ、法律の制定で新しく出来た、県の検査機関では、ADHDの疑いと言われた。
その後、複数の専門職の人との長期的な観察を経て、高機能自閉症、の診断になった。

では、診断名が変わったから、遥に関する専門職の対応はコロコロ変わったのか?というと、全くそうではない。

遥の歴代の担当者の皆さんは、診断名には余りこだわらず、検査で判る本人の特性や、それまでの経過から、その時点で遥が最も必要とするサポートをしようとしてきてくれた。

「視能訓練をしても、改善されないとしたら、脳の中に小さな傷があるのかもしれませんねぇ。脳波はどうでした?」
「とっていませんよ。」
「MRIも受けられて無いんですか?」殆ど詰問口調で呆れたように言われた。「後ろの脳に異常があると、脳波に乱れが出てきたりするんですがねぇ…取るように言われませんでしたか?」

―何様のつもりよ?この人…

「言われてません。必要も認めませんね。」

―…嫌なこと思い出した。



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