gift-貴方が与えてくれたもの
【24】[続・検査の憂鬱](1/3)

ぐだぐだと考えたところで、過去は変わらない。
それは、分かり切ってるのに。

何か、すとん、と気持ちの収まりがつかない時、というのもあるものだ。

珍しいじゃない、と、夫には、からかわれた。

「ジレンマなんだってば〜、どーしよーも無く。」からかわないでよ。
「だけど、済んだこと、だろ?クヨクヨしてもしょうがないじゃんか。」
「そんなことが言いたいんじゃないんだよ。」
「じゃ、なに?」
「発達障害児ってさ、脳の機能障害、ってホントなんだな…って。」
「うん?」なんだそりゃ?
「あのさ…」

どう、説明すればいいのだろう。

「障害の状況…今、子供が抱えてる障害が、どんなもので、何が出来て、何が出来ないか?ってことを調べるためには、検査は避けて通れないことは、分かるんだよ。調べる内容によって、検査の種類が違ってることも、検査にかかる時間が、子供によって、まちまちなのも分かる。」
「うん、それで?」
「だけどさ、WISC-3RD.以外の検査も基本的には同じだと思うんだけど…知能検査って、子供の能力限界を測るためのものだから。子供にとっては、ストレスかかるものでしょ?」
「そりゃ、そうだわな。」
「そこが、煮詰まってるんだよ。」

私はため息をついた。

わかってる、そんなことは。
わかってるんだけど。

「検査そのものは、「必要」なんだけど、検査自体の説明は、検査前にはできない、検査が終わった後、ストレス抱えて、何かやらかすか?も、検査が終わってみないとわからない。」

段々、声が大きくなってしまった。

「え…?」

夫がちょっと、気圧されたみたいに、のけぞる。

「わからないから、専門家から、「検査後の注意事項」も来ないよね。で、今回みたいに、ある程度の予備知識持って検査に臨んでも、かな太暴走しちゃった。ストレスが限界超えて、体に出て、足かけ二日引きずった。これって、多分、「脳が上手く、ストレスの影響を処理出来なかった」、ってことじゃないの?」発達障害児じゃなかったら、こんなに派手じゃなかったんじゃない?
「うん、多分。」ぼそぼそと夫が答える。
「でしょ!?」

思わず身を乗り出した。夫は、更にのけぞる。

「胃カメラとかMRIみたく、薬剤使った検査なんかだと、事前に副作用の説明があって、事後の観察とかも、お医者さんが、患者さんが病院にいる間にするじゃない。それから帰宅させるでしょ?」
「あれは、ある程度「副作用」の的が絞られてて、統計的に、出やすい症状がわかってるからだろ?」
「それっ!!それが言いたいのよ!!」

夫が言ったセリフで、火がついた。

「データーが無いんだよ!だから、配慮のしようが無いことだらけなんだよ!!軽度発達障害児の生活って!」
「なに?」

夫は目を白黒させて、もっと詳しく言って?と、促した。

「ストレスって見えないしさ、症状だってまちまちじゃない。発達障害児だから、検査後、必ず副作用が出るって決まったもんじゃないし。」
「う…うん。」
「だけど、本人にしたら、苦しいし、目の前で見てたら、可哀想じゃん。暴走してギャーギャー泣かれて、検査のストレスが原因、ってわかってても、ストレス解消の為の事後処理は、心理の専門家でもない、親の仕事。それだって一人じゃどうしようもないじゃない?」
「う…うん。」

何か手段はなかったんだろうか?
もう少し、出来ることはなかったのか?

何か起こるたびに、そう思う。でも、起こる前に分かることは無い。

「せめて、「検査の後は緊張しますから、ちょっとカリカリするかもしれません」とか知らせてもらえるとか、出来たら、検査後も、少しテンション下げる場所があるとかさ…、何か、立て直しが出来るような処理が出来たら良かったのに…。」

検査の後、すぐに、どこかで満足するまで遊ばせるとか、好きな漫画の本を持って来るとか。
そしたら、もっと上手く立て直せたかもしれないのに。

「………。」
「多分、検査後の症状の統計なんかとってないだろうし…とったところで、まとまった判断出来ないんだろうけど…。」

曰わく言い難い顔で、呆然としてる夫のグラスを横取りして、半分ほど残ってたワインを、一口頂いた。

「知的に高い子ほど、問題が狭く、深くなる気がするんだよ。」

同じ「発達障害」だ。しかも、カテゴリーは「自閉」系。それなのに。

「遥みたいに、明らかにあっちこっちの落ち込みが激しいと、目立つ分、フォローも厚いけど、カヲルとかかな太みたいな「一見普通、苦手もあるけど、むしろ頭はいい」タイプは、逆に困っても見落とされるし、無理して頑張った分、反動も大きいのに、そういう「反動」は、リサーチさえかからないんだもん。」

小さなことで、日常的に困難を覚える子は、普段の困難ぶりが予防柵になって、限界も低いけれど、周囲も容易く、限界の低さを理解する。
「検査後の観察なんて、多分、知的障害のある自閉症児ぐらいなんじゃない?やってるのは。それだって、経験上、「反動が出るのが予測出来る」からだよね。」
「………。」
「検査の日程だって、こっちの希望聞いてもらったんだし、かな太の知能がどんなんだか、なんて検査前にはわからないし、しょーがないことなんだよ。学校休ませて午前中から検査入れるれば、結局、休んだ分をどっかでやんなきゃならなくなる。おんなじことじゃない?かな太に負担になるのは。学校が無い、土日はセンター休みだし…」
「………。」
「でも、泣いてるの見たら、なんか切ないんだよね…。」

また、ワインを横取り。

「なんで、寄りによって、「検査」で、こんなんなっちゃうの?って…検査受けた目的は、「困難の確認」なのに…その「検査」で、わざわざ「困難」の実演しなくても…でも、かな太に悪気ないのも分かり切ってるし…煮詰まっちゃって、煮詰まっちゃって…」
「お前…ワイン二口で酔った?」
「シラフだよ!まだ!!」そこまで弱くない!

「おかーさん、山本さんとか、飯田さんに文句言いたいの?「なんで、検査の説明してくれなかったんですか?」って。」

突然の「声」に、私も夫も、振り向いたまま、硬直した。

カヲルは、キッチンの入り口にもたれかかって、少し首を傾げ、
真顔で、私たちを見つめた―

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