gift-貴方が与えてくれたもの
【13】[どこかでお目にかかってますか?](1/2)

さて、遥のもう一つの気がかり、のこと。

遥の修学旅行中の活動に「班別自由行動」というのがあった。

名前の通り、クラスをいくつかの班に分けて、決められた範囲内の地域を、自分達でバスや徒歩などのルートを決めて散策観光して歩く、というもの。
カヲルの時代にはあったが、雄一の時には無かったらしいから、割合新しい活動なのかな?と思う。自主性を養う目的かもしれない。

私は、この活動中に、遥が迷子にならないか?は、「少し」気掛かりだった。

自閉症スペクトラム障害の特徴の一つに、

「人の顔の区別がつきにくい。」

というのがある。

「相貌記憶」というそうだが、「顔を覚える」ということそのものが、度を越して苦手で、スゴい人(または、場面)になると、母親や夫の顔がわからない場合もあるというから、なかなか手ごわい特徴だ。私の子供達の中では、遥だけに、この特徴がある。めちゃくちゃ、くっきりはっきり、ある。

「認知症みたいなもの?息子とか旦那さんが判らなくなるって、あったよね?」と思われそうだが、「知っていた顔を忘れる」のとは違う。「顔を覚えたり、判別するのが、そもそも苦手で下手」なのだ。

具体的に言うと、

「一人一人を近くで見たら、誰か分かるけど、集団の中に入ると、どこに誰がいるか分からない。」とか
「同じ人と、別の場所で会うと、同一人物と分かることが難しい。」とか、

「覚えてはいるんだけど…よく、分かんない」てな状態らしい。
たまにしか会わない人なら、誰でもあることだけど、これが、毎日顔を会わせてる、親や夫で、頻繁に発生するとなると、かなり奇妙だ。

実は遥は、小学校五年の時に、私相手に、これを実演してくれた。それも、同じ日に、同じ場所で二回。

地区の運動会に参加した時に、かな太と夫が出演待機してて、カヲルは部活で居なくて、私が、遥を連れて、昼食のための場所取り中のこと。遥が突然居なくなり、なかなか戻って来なかった。

何やってんだろ?シート敷いた時には、後ろの方にいたのに?と思ってキョロキョロしてたら、いい加減首が疲れた頃に、ひょっこりと、いた、と思った辺りに現れ、手招きしたら、気づいたらしく、にわかに膨れっ面で、ズンズン近づいてきた。開口一番、

「どこにいたの〜」ぷんすか。
「どこって、ずっと、ここにいたよ?アンタこそ、どこに行ってたの?」
「お母さん、急に居なくなったから、駐車場まで探しに行ったんだよ〜、
車、なかなか見つかんないし、見つかったけど、居なくて、戻ってきた。」
「駐車場って…」

この時の駐車場は、グラウンドから歩いて五分くらいかかる、近くの市民プールの駐車場だった。
なるほど、なかなか戻ってこない訳はわかったが、なんで、そんなことをしたのかは、その時は全く判らなかった。

ところが、運動会終わった帰り際に、更に強烈な、同じパターンをやってくれたから、原因が判った。

区民運動会が終わった後、夫が駐車場へ車を取りに行き、その間に私が荷物をまとめて、三人で会場を出た時のこと。
遥にシートを持ってもらい、かな太の手を引いて、空いた片手で、お弁当と飲み物の入っていた、大きなバッグやゴミ袋を持って、「横一例」になり、ゲートへ向かった。
当然、ゲート付近は、外へ出る人達の混雑で、ごった返していた。荷物の多かった私は、人混みの中で、かな太と一緒に、遥の後ろについて、遥を先頭に、かな太、手をつないだ私、の「縦一例」になって、無事、はぐれないで、外へ出た。と、思った。

ところが。

外へ出て、入口ゲートの階段を下りて、数歩歩いたところで、遥が、突如Uターンして、階段を逆戻りしだしたのだ。かな太と手をつないで、遙の後を歩いていた私の、約60センチ、目の前で。

私は驚いて、声をかけたが、遥は気付かず、どんどん階段を登っていく。
仕方なく、その場に荷物を置き、かな太に、荷物と一緒に、ここに居てくれるように頼んで、私は、遥を呼びながら追いかけた。でも、遥は全く聞こえてないのか、歩調は早まるばかり。

ゲートをくぐり抜けた、すぐ脇で、やっと遥に追いつき、後ろから、左腕をつかんで、止めた。

「どうしたの?遥。忘れ物無かったでしょう?」

遥は、キョトンとして、目をしばたいた。なんか、ピントを調整してるような目つきをした後、

「なんだ、お母さん、ここにいたの?」

ぬぁんだって〜!?

驚愕。

ここにいた、じゃないよ、遥のすぐ後ろを歩いてたじゃない、と言ったら、「そうだっけ?」だ。
すぐ後ろ、どころじゃない、正確には、遥は文字通り、私とかな太の「目の前」を通り過ぎて、グラウンドへ戻って行ってしまったのだから…

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