アルバイト
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−9月18日− (1/10)
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「早くして下さい」
急かす声に、俺は奥歯を噛み締めた。
まさか、こんなことになるなんて。
そんなつもりじゃ、なかったんだ。
ただ、少しでも早く、柚希に会いたかっただけで。
1分じゃ、ちょっと無謀かも、なんて思い始めてただけで。
だから、引き受けただけだったんだ。
――遡ること、数十分。
俺は受付でソイと睨みあっていた。
なぜか不機嫌なコイツが、開口一番、「マジ死んでこい、ドチビ」と喧嘩をふっかけてきたのだ。
「もう帰っていいだろ!?」
「帰んなって言ったろ、ドチビ!上の命令なんだよ!」
「だから何の!」
「俺は言えねぇ!担当の悪魔待てって!」
「……お取り込み中、失礼します」
沸点を優に越えていた俺の頭が、一気に凝固点を迎えた。
ゾクリ、背筋に冷水をかけられたような感覚。
氷点下の声が、気化したドライアイスのように俺にまとわりつく。
声だけでここまで恐怖を感じたのは、柚希に浮気疑惑をかけられた時以来だ。
……なんて事を思い出して、気を紛らわすのは俺の十八番。
「何、ですか」
昂っていたもの全てを抑えて、何とかいつものトーンで言葉を発する。
振り返れば、スカールよりやや低めの、ひょろりとした悪魔が立っていた。
「どうも。エクトル・ダルストロムと申します。行きましょうか、ショータさん」
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