bitter bitter sweet
ビターなライバル(1/11)



「藤、おはよう」

「…おはよう、ございます」

「こんな所で寝なくても旦那のベッド使って良かったのに」


カーテンを開けながらこちらを振り向く泉さん。
三十歳を越えたというのに、その素肌は若々しくてシミすらない。


外の眩しさに目を細めれば、泉さんは優しく微笑んだ。



「…旦那さんのベッド何て、嫌ですよ」

「まぁ、そうだよね。私も三沢のベッドでは寝たくないし」


朗らかな顔から一転して口元を歪める泉さん。

本当に、この人を敵に回したら怖そうだ。



「相変わらず低血圧なんだね」

体も頭も重くて起き上がれずにいた私に、泉さんはパックの野菜ジュースを手渡して微笑んだ。

そういえば今更だけど、泉さんの笑顔以外の表情ってあんまり見たことないかもしれない。



「トマトたっぷりだから頭もすっきりするんじゃない」

「……すみません」


だるい身体を無理矢理に持ち上げれば、血が勢い良く頭から下がっていく感覚がして軽く目眩がした。



「藤、」

「…なんですか」


ダメだなぁ。
頭がぼやっとする。

これだから朝は嫌いだ。



「言って良いのか分かんないけど、」


パックにストローを差して口に含むと、冷たくてドロリとした液体が喉を潤した。

コンビニ弁当ばっかりじゃ、やっぱり体に悪いのかもしれないな。




「三沢の彼女、多分理加だと思う」




一瞬、時間が止まったかのように身体の全てが停止した。

息も、喉も、瞼も。

心臓さえ、止まってしまうかと思うくらいに全てが、動くことを止めた。




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