bitter bitter sweet
ビターな始まり(6/8)
私がお風呂から出ると、三沢さんはベッドに腰掛けて缶ビールを飲んでいた。
「シャワー、ありがとうございました」
「あぁ。やっぱり服でかいな」
平然と言ってのける彼は、きっとこんな展開も慣れているのだろう。
そう言う人なんだ。
いっそそう思って、もう諦めた方が楽なんじゃないかって思った。
「藤も飲む?」
「や、大丈夫です」
「そ。俺も風呂入るからベッド使って良いよ」
ベッドは少し広めのセミダブル。
…きっと、ここには彼女も寝るよなぁ。
何も無いと言えどもやっぱり罪悪感を拭いきれなくて、部屋の隅にある二人掛けのソファに腰をおろす。
写真こそ置いてはいないものの、どれもこれも彼女の影がちらつくようなものばかりが置かれている部屋。
ベッドも、ソファも、全部二人用。
自炊はしないって言ってたのに、鍋とか包丁とか調理器具が一式揃ってるところも明らかにそう言うことだろうし。
居たたまれない気持ちになって、結局は冷たいフローリングに腰を落ち着かせた。
目を閉じて見ないようにすれば、きっと大丈夫。
「藤?そんなとこで何してんの?」
「…、やっぱり彼女に悪いなって」
「………ほら、ドライヤー。風邪引くぞ。」
何も答えないってどういう事なんだろうか。
俯いたままだった私に、三沢さんは溜め息を吐いて近寄ってきた。
「ほら。乾かしてやるから」
聞きなれたドライヤーの音。
流石人気スタイリストって思ってしまう程、柔らかで優しい指使い。
嫌だな。こうやって変なところで、また彼に引き戻されてる。
「藤、」
「なんですか…?」
顔を上げると、目の前に三沢さんの顔。
男の人なのに、ずっと見ていたいくらい綺麗だ。
「前髪乾かすから目瞑って」
その言葉に素直に従うと、直ぐにドライヤーの音が消された。
「…三沢さん?」
「俺んちに来たって事は、そう言うの、期待して良いの?」
予想外に真剣な表情。
目も反らせないまま、私と三沢さんの距離は、ゼロになった。
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