bitter bitter sweet
ビターな始まり(1/8)




あれから二週間。
私は何だかんだと理由を付けて三沢さんを避けていた。

同じ店だから営業の時は仕方ないけれど、それ以外はなるべく話さないし目も合わせない。

始めからこうすれば良かったんだ。
都合の良い女なんて、今時流行らない。



「藤」
「…なんですか」


帰り際に三沢さんに呼び止められても、もう慌てない。
好きだって気持ちを押し殺して、聞き分けの良い大人を演じる。



「…ちょっと、来て」

手を掴まれただけで三沢さんの体温を恋しく感じてしまう、浅ましい自分。
駄目。諦めるんだ。

全部無かったことにして、同僚に戻るんだから。




「藤、俺の事避けてんの?」


いきなり核心を突いてきた三沢さん。
ここは、頑張るしかない。
もう、浮気相手なんて辞めてやるんだ。



「なんですか、真剣な顔して」
「質問に答えろ」


真剣な顔。なんで私なんかにそんなこと言って惑わせるの。
放って置けば良いじゃん。


「…別に、そんな事ないですよ」

私なんかと会う時間があるなら、彼女と会えば良い。

…彼女か。
一度くらいどんな人か見たかったかも。



「何怒ってんの?」
「怒ってなんかないですって」
「じゃあ何で目合わせないの?」


何でって、やっぱり三沢さんは酷い人だ。
私が好きだって言わなければ、気持ちなんて無視しても良いって?
好きなんだから、何しても文句言わないとでも思ってた?



こんな関係で、況してや彼には恋人がいて、

それでも私は、貴方に好きだと言わなきゃ駄目なの?
そこまで惨めな思いをしなきゃ、離れさせてはくれないの?




『藤、浮気なんて、許さないよ?』


それは、貴方の言える台詞ですか。
私の事なんて、微塵も好きじゃないくせに。





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