大好きだから、殺すんだ
※一話(1/1)



小鳥の囀りが聞こえる。

窓から差し込む日差しに邪魔をされ、重たい瞼を開けて気づく。

実験のレポートを書いている途中に寝てしまったのだと。


「しまった。僕としたことが……」


適当に切ったボサボサの短い髪をかきむしり、ひとまず手短な所を片付ける。

いつもあまり整理整頓されていない机の上は、恐ろしいほど散らかっており、我ながらよくここまで汚くしたと少し感心する。

「今日予定が入ってなかったのが救いか……」

「そぉーだねぇ。レノン、スッゴい爆睡しててこのままずっと永遠に起きないかと思ったよぉ」

「勝手に人を殺すな。それに、いつからいたんだライカ」

「へっ?!ん〜とね。二時間前ぐらいからかな」


えへへーと呑気に笑って僕の寝癖を直しているライカだが、二時間もこんな所で何もしないでいただなんて、ある意味恐ろしい奴だ。

僕達“科学技術者”とは違い、“戦術科”のライカ達は毎日朝早くから夜遅くまで体力作りのために筋トレ三昧のはず。

今日だって、特別な行事などないのだから、いつも通り訓練があるはずだ。

と、いうことは、

「お前、またサボってきたのかよ」

「だってさ、私は基礎体力を上げるためじゃなくって、もっとこう、技術を学びたいからこの学校に入ったのに、ぜぇんぜん応用技術教えてくれないんだもん」

「知るか。お前がここでサボると、僕だけじゃなく、皆にも迷惑がかかるんだ。どっか行け、去れ」

「ああー、ひどいー」



ここ、リルーチェ学院は、三つの学科に分かれて成り立っている。

薬物から、化学兵器などを研究、開発する技術者を育てる“科学技術者科”

あらゆる場所でも生き残り、誰よりも高い戦闘力を発揮出来るように育てる“戦術科”

戦略、交易取引、社交的な行動をとれるように指導し、品格共にあらゆる知恵をもつ者を育てる“社交的戦略科”

この三つからなり、将来的に皆“裏”の世界で生きていく者が多い。

というか、裏の世界で生きていけるようにこの学院に入った者がほとんどだ。


「でもー、でもでもー、ここはレノンの専用研究室だからいいじゃん」

「よくねぇ。気が散る」

「ぬふふー、気にしないで?私は空気ですヨ」

「………うぜぇ」

「ひょー!!にゃははっ、当たんないよ〜」

手元の本でライカの頭を殴ろうとしたが、流石運動能力しか取り得のないやつ。軽々と僕からの攻撃をよけ、猿のように身軽に逃げまくる。

笑い方が本当に感に障る。


そろそろマジでキレようかと、新薬に手を伸ばしたとき、校内放送が流れた。


『ライカ・リグレナール、直ちに東グランドに来なさい。もう一度繰り返す……――』


「………おい、呼ばれてるぞ」

「そぉーだねぇ。今回は本当に殺されちゃうかもー」


にひひひっと呑気に笑って、窓のさんに足をかけるライカ。



「流石に死ぬのはヤダからもう行くねー。レノンも頑張ってねー」


それだけ言うと、長いツインテールの髪を靡かせ、三階のこの部屋から下のベランダに飛び降りる。

すたっと綺麗に着地を成功させれば、僕に手をふりながら残像が見えるんじゃないかと思うほどの速さで走り去っていく 。

「………やっと自分のことができる」


ふぅっとため息一つ。レポートの続きをしようと振り返ると、どこから視線を感じた。

殺意を込められたような視線じゃない。観察をしているような視線だ。


だけど、どこから、誰の視線かは分からない。


ぐるっと一回り見てみるが、それらしき人物を見つけられず、諦めてレポートに取りかかることにした。


どうせ、戦術科の者が犯人としたら、科学者の僕が見つけられるわけがないんだから。


「気にしない方が吉だよな」





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