おしいれ。 ep3 〜時を越えて〜
★[母と私](1/1)

『麻希のとこっておばあちゃん来てるんだね』

なんてことない友人からの一言も煩わしい。

ついに私はもう来なくていい、と祖母に言った。祖母は少しだけ表情を曇らせたが、わかった、と小さな一言を口から発した。

家に居づらくなった私は母の元へと向かった。

病院に着いた時私は息が上がっていた。知らず知らずのうちに歩みは速度を上げ、走りながら病院に向かっていたのだ。

まるで、自分の口から出た祖母への言葉から逃げるように。

病室の母は眠っていた。静かに、それでも呼吸は聞こえてくる。

母の寝顔を見ると、綺麗だと感じた。私自身、自分のことを不細工だと思ったことはないし、可愛いと言われることもしばしばだったし、告白されたこともある。

じっと母の寝顔を眺めていると、すっと一筋の水跡を残して枕に染みができた。母の目元から涙が流れていたのだ。それを見たとき、私はなんとも言えない気分になった。

麻希。

しばらく惚けていた私を気付かせたのは母の私を呼ぶ一言だった。目を覚ました母は目元を拭いながら私を呼んでいる。

『どうしたの?麻希』

憎らしかった。病気になり、家にも居らず、授業参観にも来てくれない。そんな母が憎らしかった。

それでも、憎むべきは母ではない、ということも私は小学生なりに理解していた。どうしようもない感情が高ぶり、私の頬にも涙が流れた。

母が家から居なくなってから私は幾度となく泣いた。今度の涙も何回目の涙なのかさっぱりわからない。それでも、今私の頬を流れる涙は今までとは別物であると直感していた。

母はそっと私を抱きしめて泣いた。2人で泣いた。涙は枯れるものではないとは知っていたが、どこにこれほどまでの水分を蓄えていたのかと思うほどに涙は溢れ続けた。

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