そんな恋のお話

◇童話シリーズ
『人魚姫』
(5題) (1/1)




『誕生日おめでとう!シレーヌ!!』

華やかな水の宴。
綺麗な海のお城の中で今日、めでたい日がきました。

祝福されているのは、人魚のお姫様シレーヌ。

王様の五人目の娘です。
そのシレーヌは、今年で15歳。
海の中では、立派なレディです。

「ありがとう、皆!
これで、私も立派なレディ!!
海の外見放題で、スッゴく嬉しいわ!」

「はしゃぎ過ぎはダメよ?」
「つか、15歳の第一声それかよ」
「まぁー、シレーヌだしぃ〜?」
「シレーヌちゃん、おめでとうだね」

嬉しそうなシレーヌ。
それに口々に、お姉さん達がシレーヌに祝福の言葉を言います。

シレーヌは、ニコニコしてお姉さん達に応えました。

「…私も嬉しいぞ、シレーヌ。
だが、お父さん心配だ…シレーヌは可愛いから、海の外なんか行って誘拐されたら!!」

「はいはい、お父様うるさいよー」

二番目の姉が、王様の言葉を一蹴しました。

「まぁ、お父様は心配性ですから」

一番目の姉が、頬に手を当てて言います。

「でもぉ〜、ちょっとウザいよねぇ〜」

三番目の姉が、心底面倒臭そうに言い、

「そ、そんな事言っちゃダメ!
お父様は、私達が可愛いからだよ!」

四番目の姉が、フォローしました。

そんな様子を、シレーヌは楽しそうに眺めました。



「シレーヌ様、おめでとうございます!」

そして、お城に仕えているお魚達や人魚達もシレーヌに祝福の言葉を、言っては笑顔を向けました。

とっても幸せな日。

シレーヌは、皆とダンスやお話を楽しみました。



そして、そんな楽しい時間を過ごして、いつの間にかもう夜遅くになってしまいました。

「ありゃ、もう夜遅いから、撤収!!!
後片付けは明日にしよう!
そんじゃ、皆のもの!また明日!!」

適当な王様の言葉で、お城に居る者達は次々に出て行きました。

そして、シレーヌも自分の部屋に行こうとしました。
すると、二番目の姉がシレーヌの腕を掴みました。

「シレーヌ、15歳の誕生日プレゼントに、今日海の外行こうか」

「えっ!でも、お父様が明日からって」

「お父様にはナイショさ」
「そうですよ、シレーヌ。口裏は私達が合わせますから」
「初めての海ってやつぅ〜、楽しんでおいでぇ〜」
「気持ち良いからね、シレーヌちゃんの好きなお唄が沢山、唄えるよ」

いつの間にか、姉達が集まって、シレーヌにニコニコしながら言いました。


「ありがとう!お姉様達!
私、行ってくるわ!大好きよ、お姉様!!」

そう言って、シレーヌはお城から王様にバレないように出て行きました。




「シレーヌに大好きって言われちゃった」
「絶対、私が一番ですね」
「何言ってるのよぉ〜。私に決まってるわぁ〜」
「はぅ…やっぱり可愛いなぁ、シレーヌちゃん」

お姉様達は、妹大好きでした。

そして、

「…まったく、私の娘達は…、バレバレだと言うに。
だが、隠す姿もお城からコソコソと出て行く姿も可愛いねぇ」

お父様は、娘達至上主義なのでした。








ぐんぐんと海面目指して泳ぐシレーヌ。

ドキドキと高鳴る鼓動。
姉達からよく聞かされた外の世界。

シレーヌの胸には、期待で一杯でした。


そして、海面に着き、ドキドキと外の世界に頭を出しました。


そこは、見渡す限り美しい紺碧と蒼海。

いつも見慣れていた海が、キラキラと光っています。

そして、見上げると紺碧の中に美しい光り輝く粒達。

まるで、宝石。
全てがキラキラと光っているそこは、宝石箱。

シレーヌは、ウットリとその景色を見ます。

「こんな綺麗な場所で、唄ったら、幸せだわ」

そして、シレーヌは大きく息を吸い込んで、唄を紡ぎました。


















ある所に、一人の王子様が居ました。

王子様というものの為に生まれた様な風貌の王子様は、また王子様らしいプリンスと名付けられていました。

プリンスは、とても良い子でしたが、小さい頃から船が好きでいつも船に乗っていました。

そして、最近18歳になったある日。

「俺の名前、超恥ずいんだけど!!」

と言って、グレてしまいました。今更ですが。

グレたプリンスは、止める両親を無視して
船に乗って海へと出て行きました。


甲板に出て、溜め息。
とっても美しい海と空。
ですが、今のプリンスにはそれは自分の心の中の汚い感情が浮き彫りになるようで…。



波のさざ波に耳を傾けて、目を瞑ったプリンス。

「…真っ暗だ」

寂しそうに、そっと呟きました。

ふと、波のさざ波の音に混じって、美しい、綺麗な声が聞こえました。

「…歌?誰が歌っているんだ?」

儚く、それでいて柔らかく。
とても心を暖める唄。

甲板から身を乗り出したプリンスは、海面で浮かぶ人影を見ました。

どんどん船はその人影に近寄ります。
そして、プリンスはその人物をよく見ました。


海をベッドの様にして、寝ている美しい少女。

ですが、その少女に足がなく代わりに魚の尾鰭が付いていました。

プリンスは、驚いてしまい、

「君は、人魚か!!?」

大声で尋ねてしまいました。

人魚は、唄うのをピタリと止めて、美しいビロードの様な目を丸くしていました。

プリンスは、自分の失態に気付きました。


人魚は、この国では蔑めを受けている生き物です。
自分に怯えて、逃げてしまうかもしれない。
怖がらせるつもりは、ないのに。

プリンスは、高鳴る胸を抑えて口を開きました。

「済まない!君の歌が聴こえて…、その、あまりにも…美しい歌声だったから…。
怖がらせてしまったなら、謝る!」

ばっと頭を下げました。
精一杯の謝罪。

何も言わない人魚。
だが、逃げない人魚。

どうしたのかと、プリンスは頭を上げました。

「…えっと、ありがとう。
そんなに褒められると、照れちゃうな」

頬を染めて、美しい声で応えた人魚。

プリンスは、胸が高鳴るのを感じました。

「…き、君の名前を教えてくれ!!」

美しい紺碧と蒼の世界。
キラキラと光る星の下、 ビロードの目が細められました。

「私の名前は、シレーヌ」




人魚の唄
それは出逢った二人の道標





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