「……って、おまえ、なんでいんだよ？」

「あ、おかえり〜」

「おかえりじゃねぇ」



お隣さんちの片隅にある、離れ。

10畳ほどの小さな建物。

ここは、幼なじみ太一の部屋。



「鍵はどうした？」

「ん？　あぁ、おばさんに開けてもらっちゃった」

「あぁ!?」



チッと舌打ちする太一。



「あーっ、舌打ちはマズいよ」

「親みたいなこと言ってんじゃねぇ」

「ある意味、母心だね。あたしは彼女もいない太一を心配して言ってるのにさ」

「俺は作ってねぇだけだ。それと舌打ちと関係ねぇだろ」

「いやいや、それがあるんだなぁ。舌打ちする男は感情の起伏が激しくてＤＶ男になる恐れがあるから『付き合う前に避けるべし』って今、女の子の間では常識なんだよ？　そんなことも知らないわけ？」



なんて言いながら、あたしも真希が昨日教えてくれて、知ったばかりの話なんだけどね。



「知るか」



太一は大きなため息をついて、スーツの上着をベッドの上に投げ捨てた。



「おかしいなぁ」

「なにがだよ」

「スーツ姿って、男前度が３割増しになるはずなんだけどなぁ」

「あぁ!?」

「太一の場合は１割も増してない」



太一の場合、男前度というよりも、貫禄が増してる。

20歳になんて見えない。

妻と子供がいますって言っても誰も驚かないほどの落ち着きぶり。