今日の慧はいつも以上にご機嫌で

そして、甘い。



「……慧」

「ん？」

「身動き取れない」

「動きたいのか？」



いや、質問に対しての返事がおかしいでしょ。


床まである大きな窓に沿ってＬ字型に配置されているダークブラウンのソファー。


何人でも座れそうなくらいな大きさなのに、なぜか慧はあたしを後ろから抱きしめる形で座っている。



「……結衣」

「なに？」

「いや、なんでもねぇ。コーヒー飲むか？」

「え？　あ、うん。飲む」



抱きしめながら名前を呼んだかと思うと、突然にそんなことを言って慧はキッチンへと入って行った。


本当、なに？

今日の慧は予測不可能。


あたしはソファーに深く座り直すと、手元にあった慧が昼食前に読んでいた経済新聞を手に取ってみる。


◯◯経済新聞。

重々しい書体のタイトルを見ただけで、読む気が一気に失せた。

けど、慧はさっき真剣に読んでいたし、もしかしたら中身は面白いのかも？


そんなことを思いながら軽く目を通す。


……。

そこには様々な業種の企業の記事が載っていて、わかる人には興味深い記事なのかもしれないけれど、あたしレベルの頭じゃ理解するのも大変で。

うーって、なっているところに、



「結衣と経済新聞って、面白いくらいに似合わねぇな」



両手にマグカップを持った慧がリビングへと戻ってきた。