泣けない子供たち
℃心。(1/85)


「お待たせしました」

オレンジジュースとコーヒーがテーブルに置かれる。

手を付ける気にはならない。


「コウキさんを落としたくはありませんか」
「……落とす…?」
「ええ。自分のものにしたいんじゃないですか」
そう言って優雅にコーヒーを飲む。

整った顔にメガネ。長めの髪。
仕事はできるし頭もいい。
でも、今現在、全く意味のわからないことを言っている。


いやもちろん意味はわかる。
しかし理解しがたい。

「コウキには彼女がいるのよ」
「彼女?」
「そうよ。最近付き合い始めたみたい」
「コウキさんに彼女はいませんよ」
「……え?」
「………ヨウコさん。……私には2つ下の弟と、その更に下に妹が二人いるんですよ」
………?
いきなり何。
にしても兄弟多いな。

「 でね、子供の頃なんですが、テレビでクイズやなぞなぞが出たりするでしょう?」
コクンと頷いておく。
そんな私に彼は優しく笑いかけて。

「そうするとね、弟が一番最初に答えるんです。もちろん私は答えがわかっているので構わないのですが、上の妹は一生懸命考えている最中なんですよ」
ん?んー、何が言いたいのかはわからないけど言っている意味はわかる。


「そういうときの問題は大抵幼すぎる下の妹には頑張ってもわからない問題なんですが、そうするとその妹は“一番すごいのは二番目のお兄ちゃんだ”って言うんですよ」
「つまり、分かってて黙ってる人には気付かず答えを言った人がすごい、と?」


「えぇ。“言ったモン勝ち”なんですよね」
……何が言いたいの?



「告白、していないんでしょう?」
「なっ!」
またイキナリ!







「コウキさんもうちの一番下の妹と同じかもしれませんよ」
「………え?」



「コウキさんの今までの生活…。温かみなんて知らずに育ったんですよ。それでも…人は諦めずに温もりを求めてしまうんですよね…」
悲しそうに下を向く。


「コウキさんからしたら愛情なんて作り物の世界にしか存在しないものなのかもしれないってことですよ」
「…え……いや。でもそれはない。今とても幸せそうにてるし…」
あぁ、自分で言っていて切なくなる。





「本当にそうですか?」


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