泣けない子供たち
℃ヨウコ。(1/21)
なんか、飲もっか。
そう言ったヨウコの顔。
悲しそうで泣きそうで。
ほんとうに、このままヨウコに話させてしまっていいのだろうかーー。
「ヨウコ…」
「…ライムあったっけ?…コウキはダメだよ、ジュースね」
ドリンク用の冷蔵庫から取り出したのはジーマ。
ライムを切って、ジーマに入れる。
ヨウコはじっと、瓶を見ていた。
いつだったかーー
その日もヨウコは同じようにしていた。
“ライムを入れたときのね、シュワシュワって音と気泡。ラベルの青とライムの緑。それを見るのが好きなの”
本当は好きで見てるわけじゃないってこと、俺だって気付いてる。
ヨウコがジーマを選ぶのは何か辛いことがあったとき。
なのに冷蔵庫にはいつもジーマが冷えている。
俺が知らない間に減っていても、翌日中にはまた冷蔵庫で冷えていた。
俺はヨウコのこと、何も知らない。
知りたい。
けど、そんな顔をさせたくない。
「ヨウ……」
ピンポーーン
鳴ったのはエントランスではなく、玄関。
ヨウコは一瞬ハッとし、
さっきよりもさらに悲しそうな顔をした。
「……」
「……」
出るべきだろうか。
多分ヨウコは来訪者が誰だか分かっている。
ガチャーー。
「ヨウコさん、いつまでも出て来てくれないから入っちゃいましたよ」
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