泣けない子供たち3
℃あしたの夕日。(1/6)
物語はリカの幼い頃のシーンから始まる。
ーーーーーーーーー……
「リカちゃん、給食費持ってきてないのあなただけなの。お母さんには先生から連絡しようか?」
「ごめんなさい、お母さんに集金袋渡すの忘れちゃって」
「……そう、わかったわ」
リカは涙をこらえながら頭を下げた。
小学一年生。
リカは背の順で並べば一番前。
机の並びも一番前。
小柄な少女だ。
「ただいま」
「おかえり」
「あのね、お母さん、給食費……」
「先生に言われたの?気にしなくていいのよリカ」
「でも……」
「それより、スーパーに買い物に行ってくれない?」
お母さんの言うスーパーはうちから徒歩20分くらいのところ。
途中、絶対に通らなければならない道にはよく吠える大きな犬がいてとても怖い。
お母さんはそれを知っているはずなのにいつも私に買い物を頼む。
「あの、お母さん……」
「キャベツと、牛乳、あと卵もよろしくね」
きゃべつとぎゅうにゅう、あとたまご……
忘れてしまわないように手のひらにひらがなで書く。
「お夕飯に間に合わなくなっちゃうから、4時までには帰ってきてね」
時計の見方はまだわからない。
「お母さん、今何時?」
「3時15分よ。急がないと間に合わないわよ」
私はお財布を持って走って家を出る。
お財布の中にはおじいちゃんおばあちゃんから貰ったお年玉。
落とさないよう握りしめてとにかく走る。
走って、走って。
大きな犬のおうちの前。
そーっとそーっと、気付かれないように静かに歩く。
そしてやっとたどり着いたスーパー。
かごを持って、野菜を探す。
「きゃべつ……」
一玉はとても重くて。
「牛乳……」
一リットルも、やはり重い。
でも大丈夫。
お米の時はもっと大変だったけど、それよりは軽い。
最後は卵。
10個入り。
割らないようにそーっとそーっと丁寧に。
レジに並んで財布のなかを見る。
大丈夫、足りる。
お母さんは勉強は教えてくれないけれど、お金の種類は教えてくれた。
「680円です」
わからないときは、青いお札を出せばいい。
「1000円お預かりします。……はい、320円のお釣りです」
気を付けてね、と見送ってもらって。
重い重い袋を両手で持って。
卵があるから転んじゃいけない。
けれど、急がなくっちゃ。
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