人身売屋〜みうりや〜
[薬師の思惑](1/21)
・・・櫂の言った通りだった。

今朝早くに町へ降りて医者の家を幾つも回ったが、林の奥の小屋だと告げると人身売屋だと分かってしまい、誰も診ようとはしてくれなかった。

基本的に、あの林にはあたし達が暮らしてから一般の人は近寄らない。
不気味で非合法な商売をしている連中が住み着いた、と噂が立ったからだ。

「・・・くっそ・・・どうすれば・・・」

人がほとんど歩いていなかった通りは、徐々に人が溢れ始めてきた。
人波から外れるために通りから離れ、一人そう呟いた時だった。

「これはこれは人身売屋のお嬢さんではございませんか」
「・・・!」

寄りかかっていた家の中から、飄々とした様子で碧衣が出てきた。
見るとそこは居酒屋のようで。

「こんな早くから町でお仕事ですか?っひひ」
「・・・あんたのような暇人には関係ない。消えろ」

あたしはまた通りに視線を戻し、前を向いたまま言った。

「クスクス・・・確かに僕は暇人です。クスクス」
「・・・・・・失礼する」

気に食わない笑みを浮かべる碧衣を一瞥し、こいつが消えないのならあたしが離れようと思い歩き出そうとした瞬間。

ガシっ

肩をつかまれた。

「・・!離せ」
「医者を探しておいでのようですが・・・?」

あたしは振り返り、奴を睨む。

・・・筒抜けって訳か。





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