人身売屋〜みうりや〜
[櫂の父性](1/7)
「旦那、あんた一体どうするつもりだい」
ふさふさの白髪を後ろに無造作に纏めて酒瓶を煽る男が尋ねる。
「……さあて。どおすっかな」
深緑の着物を暑そうにたくしあげながら、櫂は答えた。
「…耳寄屋ってのも辛いねえ…旦那に酷な情報まで入って来ちまうんだから」
「旧友のあんただから聞けるんだ」
薄暗狭い畳の部屋。
耳寄屋の可文太(かぶんた)が握る瓶の中で、ちゃぷんと涼しい音が響いた。
夜になった外では夏の虫の大合唱が聞こえる。
「旦那は素直じゃないけどよ…可愛くて仕方ないんだろ?あのちび達が」
「もうちびじゃねえよ。最後に会ったのが数年前だっただけだ。いつまでもちびじゃねえよ。」
「俺ん中じゃちびなんだよ。」
「ちびじゃねえよ」
「…わかったよ旦那」
瓶を持つ手と逆の手に団扇(うちわ)を握るとゆっくり扇ぎ始める。
「旦那も頑固だからなあ…売る気なんてねぇのにそう言っちまったんだろ?」
「男に二言はねぇ。売るっつったからには売るさ。」
言いながら立ち上がる櫂。
「旦那、帰んならこれ持ってけ」
ちゃぷんと未開封の酒を渡された。
「…もらっとくよ」
「お前にじゃない、ちび達にさ」
草履を履く背に聞こえた声に、
「…ちびじゃねえよ」
振り返らずに返す声。
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