人身売屋〜みうりや〜
[人身売屋の迷い](1/6)
いくら空が清々しくても。
どんなにいい風が吹いても。
仕事の後だと素晴らしいと
思うことが出来ない。昔から。

目が覚めると足の腫れはひいたが
青黒い痣が残っていた。

衝立(ついたて)の向こうで
眠っている2人の気配に気を
配りながら布団を畳むと、
表へと出る。

もう暫くすれば朝日が昇る。
あたしはいつもの丘に向かった。




「あ

あたしのお気に入りの桜の木の
下に人影。
昨日買い取られた侍だった。

そこで何を?」
………………考え事だ。生き死にについてな

侍はぼうっと遠くを見ながら
ゆっくりと語り始めた。

……戦で死線をくぐり何度も死にそうになりながら生き延びることが出来たのは美桜都様が居られたからだったそれが生き延びたためにこんな死ぬより苦しい仕打ちを受ける羽目になるなどと誰が思うだろうか

今にも消えそうな声だった。

どうして拙者なのだ何故このような地獄を見なければならぬ

戦で生き延びたのは彼だけだ。
それが幸せか否かは本人しか
決められない。

殺してくれ」
………
「疲れた楽になりたい」

辺りが徐々に橙色に輝き始める。

過去に人身売された人たちの中にも、死にたがる奴はたくさんいた。」
殺したか?」
「殺さない。」
はっ冷酷な女だ
「人身売屋なんて仕事にどっぷり浸かれば人間がどれだけ残酷で貪欲か嫌でもわかってしまうからな」
……………
「しかしそれは売る側の話だ。あんたを買いたいと思っている家は必ずあることも知ってる。」
何が言いたい
「あんたを必要とする人間は必ず見つかる」

より一層橙色が強くなったかと
思えば、日の出はもう半分も
姿を表していた。

「何故そう言える」
「今ここにあたしたちしかいないのがいい証拠だ。買い取った人たちは誰一人売れ残ることなくここにいない。皆どこかに必要とされ、今を生きている」
拙者もどこかに売られるわけか
「何処にでも売る訳じゃないあんたを欲しいと名乗り出る人にしか売らない。だからあんたにまだ死なれる訳にはいかない」

辺りが橙色から青に変わる。

…………人身売屋はいい加減な奴しかいないと思っていたが
「半端な覚悟で人身売は出来ないからな」

嘘。
あたしには覚悟なんてない。

人身売屋は体を買う訳じゃない。





人の人生を商売にするのだから






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