となりの××事情【完】

eros.07 わかっていたことだった(1/15)







我慢ができなくて涙が溢れた。

ごめん、と何度も頭を下げた麻生くんは、これが最後とでも言わんばかりに私の濡れた頬を拭って、図書室を出て行った。



私と瀬戸朝日だけになった空間に、鼓動が早くなるのを感じる。

なんて不謹慎なやつなんだろう、私は。

だけど、一度自覚したら、瀬戸朝日に対する思いはとどまることを知らなくて。


麻生くんが私を好きでいてくれるように、私は瀬戸朝日が好きなんだ。



手は繋がれたまま。

瀬戸朝日、と囁けば、きゅっと力が込められる。



「なんか嫌な予感がして、来てみたら……」



瀬戸朝日に優しくデコピンされて、痛くもないのにいてっと顔をしかめると、瀬戸朝日が目尻を下げる。

些細な表情にすらきゅんとして、ああもう私は重症なんだと、思い知った。



瀬戸朝日と一緒にいると、ドキドキして胸が痛くて、でもそれは好きの証拠なんだって思うと、それさえも愛しい気がしてくる。自覚って怖い。



「……すいません」

「心臓止まるかと思った」

「……」

「やっぱり、木下さんは誰にも渡したくないよ、俺」



授業の始まりを告げる本鈴が鳴った。

あーあ、後でこっぴどく叱られるんだろうなぁ、なんて言いながら瀬戸朝日と笑い合う。



そのうち目線が交わって。

心臓がどくどくと音をたてだして、身体中が熱くなった。



「誰にも渡したくないなら」

「……ん?」

「誰にも、渡さなければいいじゃないですか……」




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