僕らはカケラでできている




[処方箋](1/1)
 僕らの穴/教えて恋愛マスター





処方箋
僕らの穴/教えて恋愛マスター





「なあ谷本、俺ってどうして女子にモテないんだと思う?」
「知らね。おしゃべりで下ネタばっか言ってっからじゃね? 小学生卒業して、せめて中坊レベルになってみようぜ」

「谷本氏。出会いとは」
「んなもん、どこにでもあるべ。お前が見てないんだよ周りを」

「谷本、ねぇ聞いてよ。好きな人には仲良い女子の友達が居るらしくて。告白しても良いものかなかぁ、場違いじゃないかなぁ……どう思う?」
「お前はその女子友と直接関係ないんだろ? そいつらの友情とも関係ないはずだよな。結局は男の気持ち次第なんだから、関わりたいなら当て馬覚悟で行ってみたら」

 俺は、谷本ナオヤ。
 十七才。
 高校二年生。

「谷本くん。『可愛い』って言ってくれない彼って本当はアタシのこと好きじゃないんかな」
「そういうの、本当に好きな子ほど言えなかったりするのかもよ。ダイジョブだって。お前は素直が取り柄なんだからさ、声出してこうぜ」

「谷本……部活の後輩にコクられた。マジ焦った。……そんで話せなくなった。そしたら初めて『あれ? なんか寂しくないかコレ』とか思ってさ。これってそういう事なんかな」
「それもう答え出てんじゃん。ちゃんと言ってあげないと誤解を生むぞ。感謝しろよ、勇気出してくれたその子に」

 俺は谷本ナオヤ。
 彼女は居ない。
 居たことがない。

「ねぇ、谷本くん。彼ぜんぜんシテくれなくて……ハジメテだから嫌がられてるのかなぁ」
「さあね。ソイツにもなんか事情あるんじゃね? それに、ハジメテでもビッチでも、愛があればどうにかなるんじゃねぇの。知らんけど」

「谷本どっかいいホテル知らね?」
「ググれよ。でもホテルのゴム使うのはやめといた方がいいらしいぜ、ってグーグル先生が」

「たにもとー、聞いてくれよ。俺三人目だって。現在完了じゃなくて、進行形で」
「ならお前が抜きん出たテクニックとスキルを発揮してナンバーワンのオンリーワンになれよ。嫌なら離脱しろ」

 俺は谷本ナオヤ。
 恋を知らない。
 非童貞。

「ナオヤくん、入るわよ」
「……また来たの」
「直人さん今日もお仕事なのよ」
「……へぇ」

 この人はギリノハハ。
 俺と親父の顔が好き、なんだって。

「動かなくて良いから」
「……なぁコレ俺なにか意味あんの? 写真とオモチャでよくない?」
「ふふ……そんなこと言っても嫌がらないじゃない」

 俺のからだ≧オモチャ。

「こういうコトしたってナオヤくんは彼に言わないし、顔にも出さないじゃない?」 
「めんどくさい状況生みたくない、っていうだけだよ」
「不思議な子、もう少し熱くても面白いのに」

 そうだね。俺もそう思う。

「彼女ができたらどうしようかしら。私が妬くことになる?」
「知らね。……きっと出来ないよ」

 出来るわけがない。
 俺は恋をしたことがない。
 出来ないのだろう。
 たぶん、この先ずっと。

「なんでミサコが泣くのさ」
「なんでだろうねぇ、わかんない」

 コイツはミサコ。
 ミサコは家族みたいで、友人で、長い付き合いのある、知り合い。

「それより、お前こそどうなんだよ。カレシ出来ただろ?」
「……イイ人。こんなアタシでも好きだって言ってくれる。きっと初めて『この人と一緒に居る自分のこと、好きになろう』って思ってる」
「……ヤれた?」
「ううん……できなかった。受け容れられてるって感じるほど、好きって言われるほど、むり。好きになるほど応えられなくてツライ」
「難儀だねぇ」

 ミサコも俺も、どっか少しネジがずれてる。
 直し方なんか知らない。
 俺はたぶん良い奴で通っていくだろうし。
 ミサコはきっと思わせ振りで嫌な奴、のまま。
 心は減っていく。
 空いた穴の形ははっきりわかるのに、塞ぎかたを知らない。

「ナオヤ、手つないでいい? 今だけだから」
「いいよ……はい」
 
 手は温かい。
 昨日の夜のマジワリよりずっと。

「なぁ、俺も。言ってみたい言葉があるんだけど、このままだと一生言えない気がするから。いま言ってみていい?」
「いいよ」
 
 嘘じゃないんだと信じたい。
 流れない心もある、と。
 それはきっと温かいもので、尊いものだって。  
 

「愛してる」

 
 この繋いだ手の中に、在るもののように。






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