[かけのぼる、バカ](1/1)
姉妹/中学生
かけのぼる、バカ
姉妹/中学生
妹はバカだ。
じゃないと、こんなことしようなんて思うはずないもの。
『だっていい感じに斜めだよ、でこぼこだってついてるじゃん。筋みたいな溝もついてる』だって。
彼女が指差したのは崖の縁とかによくあるアレ。『のり弁』じゃないし……とにかくそんな感じのアレ。
彼女にあとで言おう。これは崖崩れ防止のためのコンクリか何かであって、ロッククライミングするためにつけられたものじゃないって。
とにかく私たちは二人はいま中学校の制服姿で、ビル三階か四階くらいの高さのちょうど真ん中にいて、スパイダーマンみたいなかっこのままヨジヨジ登ってるところを、出てきた近所の人たちに下から心配されながら見つめられてて。そんな中を、上にある一本の木を目指してただひたすらにクライミングしてる。
登れるっていえば登れるし、大丈夫っていったら大丈夫。
でも下を見たら落ちそうだし、そろそろスカートの中を気にする余裕もない。
ああほんと、黒のショートレギンス履いていてよかった。妹はパンツ丸見えだけどね! アホー!
「もう少しだから! お姉ちゃんがんば!」
少し上をいく妹が「やったー!」と先に到達。
あたしももう少し、って所で急激に恐怖心が沸いた。
あれ、これやばくない?
「お姉ちゃん、手だしてよ!」
「やだこわい! 佐保のあほ!」
「いいからもう、ネエネ!」
昔の呼び名で呼ばれて、ハッとした。
「ネエネの方が、怖くない! ほら!」
あ、っと思う手を引っ張って佐保が上に引きずりあげた。
「ミカン! ね、あったじゃん!」
そこにあったのはミカンの木だ。
なんだ、これを見せたかったのか。
「ねえ、お姉ちゃん。あたし思ったんだ」
「……なによ、まだなにか」
「私学、いきな」
あたしは彼女を見た。
「ね! はい、ミカン」
なんだ。知っていたのか。
彼女はオレンジ色のそれを差し出して笑っている。
妹はいつもこうだ。
怖がらず、唐突に核心をつく。
あたしはその顔をずっと忘れないだろうと思った。
「わかったよ、ありがとう……ところで佐保。どうやって降りる?」
彼女は気持ちよいほどの声で、言い切った。
「しらない!」
妹はバカだ。
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