「ええええ!!!無理です!絶対嫌です!!」
編集長から、最近流行っているキャバクラに体験取材に行ってこいと言われたのは、あれから1ヶ月程経った時だった。
蒼空くんに初めてあった日から、忙しくて彼のケーキ屋さんにも一度も行ってなくて。
しかも、蒼空くんのこともすっかり頭から消えていた。
「普通に取材じゃダメですか?」
だって!キャバ嬢ってガラじゃないし・・・若くないし・・・
ドレスを纏って優雅に・・・なんて、がさつな私にとてもできそうだとは思えなかった。
「だ〜〜め!キャバ嬢、潜入取材って名打って、上に通しちゃったから」
「は?」
普通、上に通す前に私に相談するべきだろうが!!!
ギリギリと睨むが、つーんとそっぽを向いて耳を塞いでいる編集長に更に怒りが込み上げる。
「あの、うちはタウン誌ですよね?!そんな、週間〇〇的な記事でいいんですか?」
こうなりゃ泣き落とし作戦とばかりに
涙目で、編集長に訴えた。
「ああ、そう!週間ゲンザイが、女の子いなくてね。
お前を貸す事になったんだ」
週間ゲンザイとは、王林社のゴシップ誌である。
たしかに、あそこは男ばかりの汗臭そうな部署だ。
「えええ!?貸すって!本人の了承も得ないで?!
つか、私もう女の子って年齢じゃないですよ?!
若い子なら、新卒の玲奈ちゃんがいるじゃないですか?」
自分で言ってって悲しくなるが、私なんかより若い子の方がいいに決まってる。
編集長に抗議するためにはやもうえまい。
「玲奈ちゃんをあんな現場に行かせる気か?!
店の人気者になってしまうじゃないか!」
編集長は真面目な顔でそう答える。
「は?じゃ、私は良いっていうんですか?」
怪訝な顔で食って掛かると
「椎名はもう30だし、大丈夫だろ?」
ううう。まだ30じゃないし・・・。
「大丈夫。椎名、童顔だから25くらいでも通るよ」
「編集長・・・全ぜっっん!嬉しくないんですけど!!」
にこやかに微笑む編集長に恨むような顔で睨むと。
「ちゃんと、手当付けといてやるから、今夜から頼むな。店長には話つけといてあるから」
そう言って、一枚の名刺を渡し
「さ、タバコでも吸ってこよ〜〜」
っと、ご機嫌で去っていった。