アンラッキーセブン
[9.大型連休=俺には地獄・中編](1/12)


「服はそこのカゴに入れとけよ」




  会長がそう言って洗面所から去った後、それについて何の疑問も持たずにシャワーを浴びていた俺だが、気分が落ち着いてくると同時に己の仕出かした過ちにようやく気付いた。


 慌てて風呂場を飛び出したのだが、時すでに遅し。




「ちょ!......っと......」




 悪い予感は当たるもので、カゴに入れていた服は全て消えており、代わりに黒いバスローブがキレイに畳んで置かれていた。


 コレを着ろ、と?




「激しく拒否りたい......」




 しかし、このまま全裸でいるのも忍びなく、泣く泣くバスローブを羽織ったのだった。


 静かに洗面所を出て、同じく用意されていたタオル地のスリッパでペタペタと廊下を歩く。


 突き当たりの大きなドアをゆっくり開ければ、どこぞのモデルルームかと思うような40畳ほどもあるリビングダイニングが広がっていた。


 巨大すぎるテレビは当然、置かれた全ての家具が高級なモノだと、目利きで無い俺でも分かる。


 その中でもひときわ存在感を放つ革張りのソファに目をやれば、足を組んで悠然と座る会長らしき後頭部を見つけ、音を立てずにそっと近づいた。


 テレビのスポーツニュースに見入っているのか、俺のことに気付いていないようだ。


 日頃の仕返しとばかりに背後から驚かせようとした、その時だった。




「早かったな、ちゃんと湯に浸かったのか?」




「!?」




 視線はTVに向けたまま会長が急に喋ったことで、俺の方がビクッと肩を揺らす羽目になった。




「え、何......妖怪?」




 後頭部に目でも付いてるのかと、驚きのあまり高坂並のドン引き発言をかましてしまった。


 当然、ソファの背に片腕を乗せて振り返った会長の顔は、引きに引きまくっている。




「お前、アホだろ......って、おいコラ、こっち来い」




 阿呆にアホと言われて傷付く・・・間も無く、眉間に皺を寄せた会長が指をクイッと曲げ、軽く手招きの動作をした。


 そういう仕草が様になるのは会長だからかと思うと、なぜか反抗心がムクムクと首をもたげてくる。


 数メートル後ろに突っ立ったまま無視を決め込めば、会長の舌打ちが聞こえた。






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