アンラッキーセブン
[3.鳴らない時計](1/8)


 昨今の若者が目が覚めてまずやる行動と言ったら、携帯をチェックすることだ。


 とは言え、そんな文明利器を持っていない俺は、枕元に置いてあった目覚まし時計を見てげんなりした。




「入学式に遅刻かよ......」




 その原因は2つある。


 鳴らなかった目覚まし時計、そして寝心地の良いベッドのせいだ。


 義務教育が終わった今、いつかはホームレスになる日が来るかもしれない。


   そう覚悟していただけに、寝袋だろうが雑魚寝だろうが寝られる自信はあった。


 だが、逆のパターンを考えていなかった俺は、こうして最悪の状況下に置かれている。


 入学初日から、落ちこぼれの烙印を押されそうだ。


 おそらく今頃は式の真っ只中だろう現実に、溜め息を吐くしかない。


 昨日は高坂とのことで疲れて果て、風呂にも入らず寝てしまったため、スウェットを半分脱ぎながら脱衣所に向かった。


 熱めのシャワーを頭から浴びる。


 濡れた髪を掻き上げれば、湯気で曇りがかった鏡に映る俺の額の左側に、昔の古傷が小さいながらも主張していた。


 幼い頃に受けたこの切り傷は、忘れようとすればするほど、痛みと悲しみを綯い交ぜにして胸の内を蝕んでいく。




 その痛みは教訓だ、




   受けた仕打ちを決して忘れるな、




   鏡の中のもう1人の俺がそう言っている気がした。


 その後、簡単に身体を洗い風呂を出た俺だが、まさかの不意打ちに不機嫌MAX再来だ。




「ナナちゃん、おはよぉ」




 上半身裸で脱衣所に立っていたのは、同室者の高坂だ。


 寝惚けているのか、眠たそうに目を閉じたまま鏡に向かって歯を磨いている。


 一方の俺は、腰に巻いたタオル以外、ほぼ全裸状態。


 軽く拭いた程度の髪からは水滴が垂れ、肌を流れて床を濡らす。


 それに一瞥くれた高坂は、一度は視線を離し、そして首を折りそうな勢いで再びこちらを向いた。




「うぉ!すげぇ色っぽーー」




「お前も落第者か......」




 高坂のふざけた発言を踏みつけて、俺は本日何度目になるか分からない溜め息を盛大に吐いた。





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