地の果ての庭

第一部 強化。


穏やかな土曜日の朝。その雰囲気を乱しているのは、

「リア、チョコプリン!」


そう、砂糖中毒の彼。
なんだろう、普段はもっと落ち着いた感じなのに、本当に甘いものを前にすると幼稚園児のようになるんだなあ。

「騒がしい」
「すいません」

見事にマリーちゃんがあたしの気持ちを代弁してくれたところで、あたしも半ば呆れ返ってこう言った。

「ちゃんと作って来たよ。つか、さっき一緒に来た時もちゃんと話したじゃない」
「じゃあ、一人分ずつ取り分けようか。レオンハルトさん、お皿ある?」

気の利くアリーナは早速彼のことを放置して、先のことを考えていた。まるでここに初めてきた人とは思えない馴染みっぷり。あたしより馴染んでるんじゃないかってレベルだわ。

「うん、キッチンにナイフとフォークあると思うから適当に見てみて」

そしてレオンハルトさんはこちらの方をチラッと見やりながら、

「あとさ、リアちゃんもアリーナさんも俺とか呼び捨てで構わないからね。ラザロで」
「あら、じゃあそう呼ばせていただくわ。ラザロで。そしてあたしのこともどうか“さん”なんてつけないで」

アリーナは切り替えが早い。まあ、そもそも歳だって一つしか違わないしね。
そしてラザロは横の無口なお方を、何かを促すかのようにじっと見つめる。それに気づいた彼も口を開いて、

「……もちろん、俺も呼び捨てで構わない、ラインだ」
「じゃ宜しく、ライン」

そういえば下の名前、上級生二人組みともにラ、で始まるのか。
クソほどどうでもよいが。

「アリーナのことは簡易的にみんなに連絡回したから。でもあとでちゃんと自己紹介宜しくね」

さすがラザロ、仕事が早い。

「それはわざわざどうも。その方がスムーズにいきそうで助かる」

聞いている感じだと、私もだいぶこの中だと異分子そうだし、と呟く。
そうこうするうちに、ソラは既にきっちり皿とスプーンを人数分セットしていて、目を爛々と輝かせ、今か今かと待ちわびていた。

食い意地張りすぎだろ。
まるでお預けを食らっているわんこである。

「じゃあ、あたし取り分けるね」

そうアリーナが言い、これまた器用に9等分して取り分けていく。

「うわぁ……」

まずは取り分けられたプリンを感動の眼差しで見つめる彼。
いや、芸術作品でもないし、私からしたら極めて普遍的なものなので、ちょっとその反応は……背中がこそばゆいな。



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