オヤマの大将

〇元サヤ(1/8)









朝八時半、寮棟1階にある食堂。

ショータさんの部屋まで迎えに来てくれた華川君は、現在お花摘み中。

これにちょっかいかけたら殺すからね。あほう君も、夏生が戻るまでここ離れちゃ駄目だよ。言いつけ破ったら、わかってるよね

勿論であります!

食堂を離れる前に周囲に牽制してくれたから、ジロジロ見られるだけで危害は加えられていない。…いまのところは。

(それにしても)

周囲の不良さん達と目が合わない程度に、キョロキョロと控えめに見渡してみる。

やっぱり鬼山の食堂だな。

猥談や怒声、物が壊れる音があちらこちらで飛び交っている。

怖くてたまらなかった不良同士の喧嘩は、巻き込まれなければ害はないし少しだけ慣れた。

「おいブス、鰹節の量少ねーんだよ!殴るのは勘弁してやっから詫び料寄越せ!」

「こっちは忙しいんだから、いちいちケチつけるんじゃないよ!小さい男だね!!」

お…おお、マジか。

喧嘩は不良同士だけじゃないのが鬼山らしい。いかついおばさ…迫力のあるお姉さんが、難癖付ける不良とメンチ切り合っている。

鰹節の量なんていちいち文句言わなくても…っ、えっ!うそ…っ!?

「調子こいてんじゃねーぞババァ!!!」

「くっ」

おばさんの三角巾ごと髪の毛を鷲掴みにして、怒号と共に拳を振り上げた不良。

本気で殴るつもりだ。

誰か…駄目だ、ギャラリーは楽しそうにニヤニヤと見物するだけで助けは期待できない。

そうだ、華川君を

「いっぺん痛い目みせてやるよ!」

…いや、間に合わない!

「やめろ」

不良への恐怖より焦りが勝り、1%の勝算もないまま飛び込もうとした。

そう、確かに俺は、ガラの悪いギャラリーを掻き分けて騒動の中心に近づいたんだ。

でも

「女に手をあげようとするんて恥ずかしくないんですか?…本当、うんこ以下」

俺じゃない。

止めることは不可能でも、間に入って代わりに殴られるくらいは出来るだろう。

そんな弱腰でいた俺が、不良さん相手にこんなデカい口を叩けるはずがない。

「ちっ、てめーは」

「風紀副委員長3年、澤白です」

風紀…!?

は!?風紀!?ちょっと待て、この学校にそんな委員会あったんですか!?

左腕に腕章を付けて凛と佇む澤白さんは、背格好こそ俺と似ているけど不良相手にまったく物怖じしていない。

それどころか、優勢…?

「外部の人間に手を出すなかれ=Bこれ以上風紀のルールに違反するなら、今ここで断罪します」

「あ゛ぁ!?てめーらが勝手に作ったルールだろ!?俺達に押し付けてんじゃ」

「それが貴方の返答ですね」

あぁ、やっぱり。優勢だ。

威圧感を醸しだしながら近づく澤白さんに、噛みつこうとしていた不良さんが後退った。

…凄いな。

あんなにデカくてガラの悪い不良さんが逃げたくなるほど強いん

「さ、澤白とババァはもうどうでも良い!テメーらには手出さねーよ!!それより、おいそこの真面目野郎!!!!」

「え」

「さっきからなにガンくれてんだテメェ!見世物じゃねーぞコラ!!」

澤白さんに圧倒された不良さんがターゲットを変え、た、って、え?待て待て、冗談だろ。なんで俺と目が合ってるんですか。

まさか

「聞いてんのか!クソ平凡顔!!!」

「俺ぇ!?!?!?」

なんでだよ!






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