オヤマの大将
○寮(1/10)
あのあと、島崎くんから連絡を受けたらしい華川くんが鬼の形相で屋上に飛び込んできた。
長い距離を走ってきたのか息が切れている。
「あほぉ…」
「華川く」
視線が交わり、ゆらり、動く。
脳内に響く危険信号。
教室に戻るためソファから離れていた俺に、ショータさんが戻れ≠ニ声をかけてくる。
でも、動けない。
後退ることも出来ない俺を鋭い双眸に捉えたまま、ズカズカと大幅で駆け寄ってきて
「こんっの」
見惚れるほど華麗に飛んで
「クソ馬鹿!!!」
で、雷のような拳骨を頭上に1発。
痛いどころじゃない衝撃が俺を襲う。殴られた場所から真っ二つに割れるようなイメージ。
一瞬、意識が飛びかけた。
「ハナ!てめぇ俺の幸太に何してんだ!」
「や、大丈夫ですからっ!」
ショータさんをおさえるために、麻痺した唇でなんとか言葉を紡ぐ。
文句はいえない。
怖いからじゃない。
いや、もちろんそれもあるけど、華川くんはショータさんの命令で俺を探し回ったんだろう。
永遠に連れ去られた不可抗力とは言え、時間も労力も無駄に消費させてしまった。
怒るのも当然だ
「夏生に心配かけるとか馬鹿じゃん!!弱いくせに、お前になにかあったらって…ッ」
え?
「もう2度と1人で行動するの禁止!!次、勝手に夏生のそばを離れたら殺すから!!」
キッと睨んでくる華川くん。
助走つけて殴るし、胸ぐら掴むし、口も悪い。殺すって、最上級の脅し台詞だと思う。
でも、不思議と怖くない。
たとえショータさんの命令がなくても、華川くんはきっと俺を本気で心配してくれていた。
それがわかるから、殺すと言われたのに心がポカポカして温かい。
「華川くん、ごめんね。あと、ありがとう」
「べ、別に。ていうか、お前のためじゃないし!ショータさんの命令だから仕方なくって言ってるじゃん!思い上がらないでよ」
「うん、ごめん」
気付くのが遅くて。
華川くんは素直じゃないだけで凄く優しい人なんだ。怯えるのに必死で、夜叉の人たちの本質を見ようとしていなかった。
喧嘩じゃ貢献できないし、特別頭が良いわけでもない。もちろん、度胸の欠片もない。
役立たずのお荷物だ。
保護して貰っている身で図々しいと思われるだろうけど、こんな俺にもひとつ夢が出来た。
「華川君、俺の親友になってください」
「は…?はぁ!?」
この人達の仲間になりたい。
不良避けに利用するだけの関係じゃなく、ちゃんとした仲間の1人として認めて貰いたい。
そのためには、夜叉の人達ともっともっと距離を詰めて仲良くして貰わないと。
「なっ、なんなのお前!馬鹿じゃん!ばーかばーか!ばかあほう!もう知らない!!!」
「あっ、待って!華川君!!」
傍を離れたら殺すって言った張本人が、怒鳴ってすぐ逃げるように走り去ってしまう。
追い掛けて屋上を飛び出して後悔した。
だって、完全に忘れていたから。階段にズラリと並ぶ華川君ファンの皆様のこと。
「あ、」
ポンッ
「なにしてんの、行こうぜ」
「島崎くん…!」
「ハナの奴けっこー足早いからな」
華川くんファンの眼力に圧倒されて、思わずUターンしかけた俺の背を軽く叩いてくれる。
やっぱり島崎くんは俺の救世主だ。
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