4年の星きっかけ 1 / 8









『早く会いたい』

『私も会いたいよ』

『会ったらキスをしよう』

『あなたの体温が忘れられない』



なんだ。

まだ、やめてなかったのか。






【きっかけ】






俺、山下蒼太(ヤマシタソウタ)が生まれ育ったのはなんの変哲も無い平凡な家庭だった。

年の離れた姉はすでに自立して家を離れているので、いまは母方の祖父母、両親、俺、弟の6人で一つ屋根の下暮らしている。

決して裕福なわけではないが、俺はこの暮らしに不満を持ったことは一度も無かった。もっとも、4歳まで姉のお下がりを着せられていた事は未だに根に持っているが。

まぁ、些細なことだ。


「兄ちゃん、食わないとなくなるよ」

「は?」

「ボーッとしてる方が悪いんだー。最後の肉ゲット」


からかうような声に我に返る。

大皿に盛り付けられていたはずの肉じゃがの山が皿の底が見えるほど減ってしまっていた。

中学三年生の弟は食べ盛りの真っ最中。

部活で激しい運動をしたあとは特に、成長期と相まって食べても食べても腹が満たされない。

俺もそうだったので気持ちはわかる。

絶対にとられまいと最後の肉を口いっぱいに頬張る様子に苦笑して、食い意地張りすぎだろうとニキビのある額を指で弾いてやった。

大げさに痛がる弟を横目に立ち上がる。


「ごちそうさま」

「え?まだご飯残ってるわよ?」

「…あー、おかずないしいいや」

「えー?ほら、晴斗がお兄ちゃんの分まで食べるからお兄ちゃん怒っちゃったでしょ。ね、肉じゃがはもうないけど何か作ろうか、蒼太」

「いや、本当に大丈夫。実は今日友達と軽く食って来てるから腹もそんなに空いてないし」

「そう?」

「うん」


作った笑顔でホラをふく。

ここ四年の間に嘘が随分と上手くなった。

なんの自慢にもならないような特技だが、俺にとっては何より必要かつ重要なモノだった。


「お腹すいたら言いなさいね」

「俺腹減った」

「あなたはもう食べたでしょ」


しまった。
もう少し早く出るべきだった。

リビングを出る直前、背中に聞こえた両親の楽しげな会話と弟や祖父母の笑い声。

聞きたくなかったのに。

手のひらで口を塞ぐ。

気分が悪い。どうしようもない吐き気がこみ上げてきて、俺はすぐさま便所に駆け込んだ。











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