4年の星 1 / 1








「あー…寒い」


意味のない言葉をそっと呟く。

白い塊が口からこぼれて空へと消えた。





『星』





今年買ったばかりの分厚いダウンコートも毛糸で編まれたマフラーもその役割を果たさない。

あまりの寒さにかじかんだ指先はほとんど感覚がなくてまるで俺の心のようだと少し笑えた。

悲しいも苦しいも嬉しいも、その感情の全てが麻痺してなにも感じられなくなっていた。

いつからだろう。

なんてセリフを吐く必要はない。

こうなってしまったのがいつでどうしてかも十分すぎるほどに理解している。

理解しているから、俺は今ここにいる。

ふとみあげた真っ黒の空には数えるのも馬鹿らしくなるほどの無数の星が光を放っていた。

星を眺めるには絶好の夜だ。

きっとあの人も喜んでくれる。


「いよいよだな、蒼太」

「ん?…あぁ、そーだな」

「喜んでくれると思うか?」

「あぁ、きっと」

「これまで頑張ったよな、お前」

「…そうだな。頑張ったな」


この日を迎えるために、いったい、どれだけの時間と手間を費やしただろう。

俺だけでは不可能だった。

彼がいたからここまでこれた。


「お前も、ありがとうな」


今までの感謝を伝えると彼は笑った。

当然だろう。

そう言うみたいに。

俺の無くした顔で優しく笑った。












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