アシンメトリー
[クロスロード](1/52)

クロスロード




「あー面倒臭え」


不器用に餃子を包みながら、数馬おじさんがぼやいた。


「なんで急に手作り?お前今まで一度もしたことないだろ」


「文句言わないで手伝って。苦労した分美味しいんだから」


お兄ちゃんは約束通り、餃子のレシピのラインをすぐに送ってくれた。


キャベツ、ニラ、しょうが。取り立てて物珍しい具材は入っていない。やっぱり思い出の味っていうのは美化されるらしかった。


それでもこうやっておじさんを実験台に練習しておいて、少しでも正確に再現してあげたい。いずれ食べさせてあげられる日まで。



花火大会の夜から二週間がたった。


あれから、黒木さんからの連絡は一切ない。私からもしていない。二週間って期間が短いのか長いのか分からないけど、思ったより落ち着いて待っていられてる。


花火が終わった後に真っ暗な空を見上げながら、二人で並んで食べたたこ焼き。あの冷え切った味が忘れられないほどの素敵な夜だったから。


ピコン。


そうは言っても、ラインの音が鳴るとすぐにスマホを確認しちゃう。


「お前、オレばっかに包ませて呑気に携帯いじりかよ」


「ごめん、ちょっとだけ」


手を洗ってチェックすると、噂をすればのお兄ちゃんだった。


「なんだ、にやけて。あいつか」


おじさんの言うあいつは、もちろん黒木さんのこと。


「違う、友達」


「男だろ。あーあー、早くも浮気か」


「私にだって男の友達くらいいるの」


お兄ちゃんはレシピの後も度々ラインをくれる。私に、というより黒木さんと繋がっていたいんだろう。



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