アシンメトリー
[パンドラ](1/62)

パンドラ




駅前までの道は、静かな住宅街だった。似たような景色ばかりで方向音痴の私には一度で覚えられそうにない。


「歩きとか、すごい久しぶりなんだけど」


「たまにはいいんじゃない。日頃の運動不足解消で」


「光さん、地味にキレてたよな」


新太さんがぽつりと呟いた。


「別にキレてはないでしょ。新太さんが心配だから言ってくれたんだよ」


「心配なのは桜子のことだろ」


少し落ち込んだような声で反論してくる。


「光さん、桜子が来るようになってからなんか変わったよ。グラスぶっ壊した時だってさ。前はああいうの考えられなかった」


変わったわけじゃない、元々そういう直情的な面は持っていた。普段は穏やかな顔の裏に隠しているだけ。


「なんか優先順位がなぁー。最近ぼくじゃなくて桜子になってるみたい」


「ええ?どこがよ。新太が大事新太が大事って、私何回聞かされたことか」


贅沢ばっかり抜かすんだから。彼にあんなに思われといて。


「でも桜子は女だ。どう頑張ってもぼくは男だし」


「ただ女だからって優先させる人じゃないよ。黒木さんは自分にとって誰が大切なのかちゃんと決まってる」


あなたは黒木さんにソウルメイトとまで言わせてるんだぞ。私なんて、してくださいって頼んでもお茶を濁されたのに。


「二人乗りのことだけどさ、どうしてもやめられないならヘルメットは変えた方がいいんじゃない?黒木さんの言う通り半キャップはやっぱり危ないと思うよ」


「でもさあフルフェイスって顔こすれるだろ。化粧が落ちるってレイナが嫌がるんだよ」


「事故って地面に顔がこすれるよりいいじゃん」


「え


「嫌がったらそう言ってやりなよ。レイナさんはあなたの大切な友達でしょ。あんな可愛い子傷だらけにしちゃだめだって」


……


新太さんは一瞬足を止めて私を見た。




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